恋愛けちょんけちょん隊(RKT)

 関東近郊を訪れたことがある人なら、必ず目にしたことがあるだろう。「け」と一文字だけ書かれた帽子をかぶった奇妙な集団を。彼らの名前は「恋愛けちょんけちょん隊(RKT)」。文字通り、恋愛をけちょんけちょんにこき下ろすことを生き甲斐にしている集団だ。
 彼らがどのようなトラウマを経て、RKTに入ることになったのかは、それぞれにそれぞれの理由があるからに違いないが、とにかく彼らの恋愛に対するネガティブな感情は異常だ。ただ、そのような彼らのことを異常というのは、あくまで恋愛においていい思いをしてきたリア充な人々からの感想であり、彼らの本当の気持ちを理解するには、彼らと同じような辛い経験を経てみないとわからないだろう。
 RKTが発足したのは、自然発生的なものだったと言われている。誰が指揮をとるわけでもなく、恋愛のことをけちょんけちょんにこき下ろす人たちが急増し、同じような考えを持つ者同士、チーム名でも決めましょうということからRKTが作られたのだ。最初は、200〜300人程度で、主に渋谷・原宿界隈で活動するだけだったこの集団も、あまりに人数が増えすぎたため、今では関東地方に700万人ほど生息すると言われている。まだ関東以外の地方では、そこまでの盛り上がりは見せていないが、あと1年もすれば、その勢いは日本全土を覆いつくのではないかという説が専門家の間では濃厚だ。
 RKT発足当時は、カップルがたまにRKTのメンバーに街中で遭遇しても、「あら、恋愛けちょんけちょん隊だわ。いやーね」と軽く避ける程度に過ぎなかったが、今ではどこを歩いてもRKTの姿を見かけ、彼らにけちょんけちょんにこき下ろされたときに反論でもしようものなら、すぐに他のRKTが援軍を引き連れてきてしまい収拾がつかなくなるので、カップルたちはひたすら肩身の狭い思いをしている。仮にRKTからの怒りを買い、道端でけちょんけちょんにこき下ろされたとしても、「すみませんでした」とひたすら謝りながら、彼らの叫びを聞いているケースが多い。
 海外メディアはあまりのスピードで勃興し続けるRKTを危惧して、「RKTが日本の恋愛を滅ぼす」という記事を出すなどして牽制しているが、全く影響はない。今では政治家や官僚、芸能人や企業経営者の中にも、隠れRKTがいるため、RKTを弾圧しようという動きは一切起こっていないのだ。
 どうしてこうなってしまったのか。恋愛とは人々の心を豊かにし、人々の人生を幸せにするものではなかったのだろうか。果たして、昔のように恋愛がけちょんけちょんにこき下ろされないような時代はやってくるのだろうか。確実に言えるのは、今こそもう一度、人類が恋愛というものに向き合い直さなくてはいけない時期なのだろう。