2009-11-01から1ヶ月間の記事一覧

ウメボシ(=ジョン・マッカーシー)

ジョン・マッカーシーがいつも通勤に使う電車では、車内で弁当を食べる人が多かった。ジョンは目をつぶって、その弁当の具を当てるのが趣味だった。この日もジョンの予想は快調で、見知らぬ人が食べているものを次々と的中させていった。 食べ物というものは…

マンホール守の恋

今年で68歳になる間野守男が、石川県鳥越村の「マンホール守」をつとめて50年が過ぎようとしていた。間野は夜7時になると家を出て、夜が明ける朝の5時頃までロマンホールを守り続ける。 マンホールには様々な人間が集まってくる。誰にも言えない悩みをマンホ…

やせがた たがやせ

わたしの彼氏はとても乱暴者で、わたしはそこに惹かれた。 彼の鉄のような筋肉を見ていると、自分がいかに柔らかくてちっぽけな存在かがわかる。彼は痩せ型なのに、それを支える筋肉の量が尋常じゃない。わたしは映画を最後まで観ることができないほど集中力…

流星のモノローグ

26歳の名波洋治と28歳の加瀬秀太郎は代々木公園のベンチに並んで座っていた。この日はフォークグループ「新渡戸?否!象!(にとべいなぞう)」の結成以来はじめての会議の日で、2人とも若干緊張した面持ちだった。2人はこの日、最初のオリジナル曲のタイ…

声かけカードの乱

「おまえ、結局今まで、いったい何枚のカードもらったの?」 雄介は川沿いの土手に腰掛けながら、隣りに座る征男に聞いた。 「うーんと、70枚かな。全部捨てちゃったけど」 「70枚? だったら講演会2回できたな。バイトする必要なかったじゃないか」 「講演…

踊れ!胃と2

荻窪の古本屋ですごく変なタイトルの小説を買いました。 それは『踊れ!胃と2』。 『2』ということは『1』があるのでしょうか、ないのでしょうか。作者の名前はキシリア・ザビと書いてあるけど、そんな小説家の名前は聞いたことがない。こういう正体不明な…

間違いだらけの蟹工船

保坂が溜池山王の交差点で信号待ちをしていると、手前にいたエリートビジネスマン風の男の耳からピンク色の物体が現われた。最初は、耳に詰めていた綿が何かの拍子で外に飛び出て、それに血が付着しているのかと思った。しかし、その甲殻類らしい角ばった動…

ケイコとマナブと新人君

ケイコとマナブが部屋の中でせっせと自分探しに勤しんでいると、ピンポンベルが鳴らされた。ケイコがドアを開けると、そこには知らない男性がいた。この辺りは物騒だから、ケイコは警戒し、大声でマナブを呼んだ。マナブは急いで玄関にやってきた。「ハニー…

早く昆虫になりたい

正志の日課は毎朝、出社前の30分間を公園で過ごすことだった。この時間はちょうど昆虫たちにとって過ごしやすい時間のようで、てんとう虫やバッタ、カナブンやちょうちょなど、多くの虫の姿を見ることができた。現在、都会には虫の生きる場所が少なくなって…

逃げろ! 自称バンドマン

沖縄行きのフェリー乗り場に、男はいた。サングラスにマスクをかけ、頭にはニットキャップ。腕を組んで、よく寝ているように見えた。本木慎司が男の隣に座ると、男は目を覚ました。 「もう、フェリー行っちゃったよ」本木から男に話しかけた。 男は眠そうな…

リゴムゴの賛美歌

ある晴れた日の午後だった。美枝子が面白い図鑑でも買おうと本屋を訪れると、八百屋の角で仲良しの芳美の父親に会った。父親の名前は思い出せなかった。2人が会ったのは20年ぶりのことだった。 「ああ、誰だっけ」芳美の父親は一生懸命美枝子の名前を思い出…

僕は友達じゃない

薫の家に電話があった。電話の相手は小森と名乗った。小森は自分のことを「あなたの友達です」と自己紹介した。 薫は心当たりがなかったもので、「私に友達はいないと思います」と答えた。しかし、小森は大笑いして、「いるじゃないか、俺が」と言った。 薫…

脳みそ実験室

カタルはとても記憶力に自信がなかった。知識欲だけは旺盛なくせに、覚えることを次から次へと忘れていく。そのスピードたるや、マーク・クルーンのスピードボールよりも速かった。 自分の将来に悩んだカタルは、記憶力を試すために、友人のマメ太を呼び出し…

和子のトラウマ ダルビッシュ編

和子にはあるトラウマがあった。 和子は小学生の頃、ダルビッシュが大好きだった。地元が北海道だったこともあり、雑誌の切り抜きやポスターを部屋に貼りめぐらすなど、親が心配するほど、昼夜を問わずダルビッシュのことを考え続けていた。 しかしある日の…

硬い卵

男は朝起きると、目玉焼きを作るために冷蔵庫から卵を取り出した。しかし、何度フライパンのふちに卵を叩きつけても割れなかった。男は怒り出し、窓ガラスを割って外に放り投げた。 投げられた卵は空を飛んでいき、少年たちが野球をしている空き地に転がって…