2009-08-01から1ヶ月間の記事一覧

ネクタイの奇跡

「ソグソグ星人は、ネクタイの匂いが嫌いらしいぞ!」 同僚の加藤がノートPCでwikipediaを調べながら言った。 「は? ネクタイに匂いなんてないだろ?」僕は怒鳴った。何を馬鹿げたことを言っているのだ。こんな一大事に。 「いいから、だまされたと思って嗅…

なんか違う

10年前のあの日、俺が面接で発した言葉はひとつだけだった。 「なんか違う」「では、吉永さん。当社を希望した動機を教えてください」 「なんか違う」 「は? 何が違うんでしょうか。じゃあ、好きな言葉を教えてください」 「なんか違う」 「あ、なんか違う…

ニューヨーク論争

9月1日が来ると、いつも小学4年生のあの日のことを思い出す。「みんな元気だった? 夏休みはどこに行ったの? 誰に聞こうかな。じゃあ、南雲くん」 夏休み明けの新学期初日。 酒井という、その女教師は僕を指し、僕はニューヨークと答えた。 「ニューヨー…

ギネスの髪

「伸びてます! 伸びてます!」 ラジオから聞こえてきた、アナウンサーの熱い実況を聞いて、客が訝しげな顔を見せた。 「何これ? 野球? タイガースの誰かがホームランでも打ったの? またブラゼルかな?」 「違うみたいですね」私は言った。 「じゃあ何だ…

スペインの牛丼太郎

知らない国に友達がいるのもいいかもしれない。 そう思って始めた、国際交流を目的としたSNSサイトで、3年ほど前に、あるスペイン人と知り合った。彼は名前をカルロスと言い、56歳だった。 カルロスは郵便局員として働いていたが昨年リストラにあい、その後…

高カロリーしりとり

あの日のことを僕はよく思い出す。 小学校4年生の時のことだ。その年の8月に僕の両親が逮捕され、僕はひとり暮らしを始めていた。親戚が僕のことを引き取って育てると言ったが、僕は拒否した。僕は両親が忙しい職業だったこともあり、料理や洗濯などの家事は…

僕と彼女とアマルフィ

僕の全身はガクガクブルブルと震え、目からは涙がとめどなく溢れていた。こんなにも人の心を打つ映画がこの世にあるなんて…。『アマルフィ』はおそらく人類史上、もっとも秀逸な映画だ。芸術だ。爆発だ。この映画が今、僕の人生を180度変えた。9月のシルバ…

20世紀日本人

1998年8月、ニューヨーク。キャサリンと僕は2人でハドソン川のほとりに腰かけながら、スターバックスのコーヒーを飲んでいた。 「ねえ、キャサリン。あと2年で20世紀が終わるね」 「くっだらない。そんな話して何が面白いのよ、リチャード。世界中で何億人…

モゲリカ!

「モゲリカ?」 「そう、モゲリカ。漢字で書くと、茂下理華。変な名前だろ」 俺と中島は、缶チューハイを飲みながら、それぞれ自分の卒業した高校の話をしていた。 「モゲリカ。モゲリカ」中島は何度もモゲリカの名前をつぶやいて、カラカラと笑った。「うえ…

九州男児がいいの

僕は、某ラジオ局でしがないDJをやっているグレープ近藤と言うものだ。僕の番組「ミッドナイトカラス」は聴取率最低で、このたび打ち切りが決まった。そんな最終回の日、番組にあるハガキが届いていたので、僕は読み上げた。 グレープさん。こんばんは。突然…

毛髪のススメ

私は、悩んでいた。 どれくらい悩んでいたかというと、役所で書類を記入する時に自分の名前を忘れてしまうほど悩んでいた。 私には好きな人がいた。私が受付をしている会社に勤める男性だ。彼の正確な役職はわからないが、毎日一度だけコンタクトする機会が…

眠い人間

ミクが起きると、カナは台所で紅茶を飲んでいた。 「あ、起きてたんだ」 「うん。おはよう。ミク、何時間寝てたの?」 「うーんと、22時間くらいかな? カナは?」 「私もそれくらい。21時間くらいかな」 「寝る前は何してた?」 「紅茶飲んだ」 「それだけ…

さんまとテレフォンズ

明大前の駅前で、僕らは迷っていた。 「よし、あのバンドに声をかけよう」 裕紀が意を決して、バンドに近づいていった。 「あのー」 「なんですか。ロックのことに関しての質問ですか?」 彼らは真面目な顔をして答えた。 「違います。さんまを焼いてほしい…

81年目のプロポーズ

「100歳になった時に、お互いまだ独りだったら結婚しようね」 曜子に告白したら、そう言われた。あれは19歳の頃だ。 それ以来、僕はひたすら健康に気遣って生きてきた。タバコは吸わない。お酒は適度に。よく笑い、よく話し、よく動く。周りの友達が次々とこ…

エクボの闘争

「『エクボの闘争』? どんな映画なの」 「見ての通りだよ。母さん。エクボとエクボが闘うんだ。それだけの映画さ」 「母さん、昭和生まれだから、そういう新しいのよくわからないんだけど、あなたたちの世代ではこういうのが流行ってるのね。そうなのね」 …

松崎マイケル・ナイマン

「パパ。ただいま」 「おお、帰ってきたか。練習、遅かったな」 「うん」 「どうしたんだ。怖い顔して」 「パパ、僕の名前の由来って何だっけ?」 「何度も言ってるだろ。ハーフっぽくて格好いいから、マイケル・ナイマンにしたって。ほら、ミドルネームもあ…

カシオ宇宙塾

カシオ宇宙塾。ここだ、ここだ。俺はピンポンベルを押した。中からは、70歳くらいのじいさんが出てきた。 「あのー、入会したいのですが」 「カシオ宇宙塾にですか? あなたが最初の生徒ですが、よろしいですか」 「え、チラシには大人気って書いてあったじ…

タラコバナナ

その日は朝から頭が少し痛かった。僕は大事な会議のプレゼンの資料作りのために、前日から徹夜していたからだ。 「沢崎、早くしろ! 会議始まるぞ!」先輩が急かす。 本当だ。もう時間だ。ボヤボヤしている場合じゃないぞ。僕は急いで資料をまとめて、会議室…

小学生のフジロック

クラスで一番快活な荒川君が「大ニュース! 大ニュース!」と言って教室に駆け込んできた。他の男子が興味津々な顔つきで「何だよ、何だよ」と言いながら、一瞬で荒川君のもとに群がる。 「まったく…。男子っていつも何であんなにうるさいんだろうね」 私が…

石狩鍋と薔薇

塾からの帰り道。私があまりの寒さに身体を震わせながら歩いていると、加奈が追いかけてきて、楽しそうに話しかけてきた。 「ねえ、陽子ちゃん。聞いて! ストーン・ローゼスってバンドが昨日うちに来たの」 「え? 何? 石でできたバンド?」 「もうー。ス…

夢は汽車

「なあなあ、おまえの夢、何?」 何この人。このクラスになってからまだ20分も経ってないのに、いきなり授業中に話しかけてきて。しかも、その内容が夢ですって? 初めての会話なのに、人のプライベートに首つっこみすぎじゃない? 「何、黙ってるんだよ。あ…

マジソン軍の箸

「昔な、『マジソン軍の箸』って映画があったんだよ」 定食屋で2人で夕飯を食べていると、父が唐突に話しかけてきた。 「へえ、どんな映画?」 「なんかな、なんとかっていう名前の中尉と、なんとかって名前の女中さんが登場する映画なんだが、その女中さん…

現代の貴族

「現代の貴族、吉田晴子ちゃんです。どうぞ!」 「ひゅーひゅー。晴子、今日も貴族っぽいよ!」 「うれしくない! 晴子、そんなのうれしくない。先生、これは新手のいじめですよね」 「いいのよ、それはあなたの持って生まれた得だから大事にしなさい」 「も…

噂のかかと

私は啓次郎の目を見て、話し始めた。 「かかとの噂、流したでしょ」 「お、俺じゃないよ」 「あなたにしか話してないもの。それ以来、私のかかとをジロジロ見る人が増えたのよ」 「だから俺じゃないんだって」 「確かに面白いとは思うわ。かかとから水菜が生…

蛍光灯のお葬式

割れた。割れちゃった。私は割れるものはなんでも弔うの。この蛍光灯もお葬式に出してあげなくちゃ。 私はすぐに2組のポコちゃんに電話した。 「ポコちゃん、私。すぐ来て。今からうちでお葬式やるから」 「え? 誰ですか」 「私よ。コエダよ」 「コエダ? …

忘れる妻

夜、家に帰宅すると、旦那がいなかった。また、豆腐屋の主人の家に行っているに違いない。私は豆腐屋に走っていった。 「すいません、うちの旦那来てませんか?」 「ああ、いるけど。今、旦那は3人来てるぞ。おまえの旦那を勝手に連れて帰ってくれ」 しまっ…

旧作ソーダ

翔子は川を見ながら、俺に話しかけてきた。 「ソーダってすごくいやらしい響きだよね」 「明日から、そんなこと言っていると毎日ソーダ飲んでやる」 「いいじゃん。やってみなよ。私、旧作のお母さんに言うから」 「旧作って誰?」 「間違えた! ビデオレン…