2010-07-01から1ヶ月間の記事一覧

フジロックには行かせない

「お父さん、私、明日からフジロックに行ってくる」 猛暑が続いたその日の晩、久次郎の15歳になる娘のモネがおかしなことを言い出した。 久次郎はそれを聞いて驚き、ショックで涙をボロボロと流した。久次郎の涙を見て、モネは驚いた。 お父さんはなぜ泣いて…

ニスゴ語に一生を捧げた男

ニスゴ語の本を翻訳していると、彼らは不思議なことを考えているものだと思います。たとえば、彼らはよく「鼻が浮かぶ」という言い方をします。ニスゴ語で言うと、「オジュ・ムハッ・クマハ」で、「すごく喜ぶ」という意味です。日本人はこういう言い方をし…

ニコラス・キンドルとジャンセプシーが奏でる優雅な一日

ニコラル・キンドルのアルバム『ジキジーナ』の3曲目『ルーガイ』を聴きながらジャンセプシーを一口食べる。ジャンセプシーは去年発売された菓子で、歯ごたえがまるでウゾルポンのようで人気がある。ウゾルポンと言えば、一昨年の誕生日に父と母からもらった…

レインボーかつら

道を歩けば、他の男たちの頭に目が行ってしまう。彼らの頭にはみんな、フサフサと毛が生えている。色を抜き、接着剤のような整髪量を塗りたくり、日焼けするのも厭わない。そんな髪の毛にとって悪いと思えることを平気でできるのは、その寿命は永遠に続くも…

肉屋 or 魚屋!!

買い物に出るたびに、脚がすくむ。これはきっと…恋…。 結城七海がこの町に越してきて2ヵ月が過ぎた。七海はビジネス系の専門学校の1年生だったが、授業のあまりのつまらなさに辟易して行くのをやめてしまった。この町であと2年、何をしようか。そんなことを…

過保護でポン

あれはまだ80年代後半のことだった。そういった卑猥な映像をビデオとかパソコンとかで観ることができない時代。権上圭太は母親の財布から小金をくすねることに成功したので、近所に住む1コ下の島原を誘ってそういった本が売っている自販機へと遠征すること…

屁の味

設楽修二がオフィスを後にしようとすると、右斜め前に座る園田が話しかけてきた。園田はいつもヘッドフォンで音楽を聴きながら仕事をしており、ほとんど周囲の誰とも話をしない男だ。設楽は少々不審に思った。 「もう帰るのか」 「そうですね」 園田は設楽よ…

ビッグアップルの忍耐帳

その昔、大山林檎という生徒がいた。大山はその名前からビッグアップルとのあだ名をつけられていた。ビッグアップルはどんな酷いイジメを受けても抵抗しないことで有名で、同学年の生徒たちはよってたかって彼をいじめた。ひどい時は警察沙汰になることもあ…

ぜんぶ靴のせい

「その子、どんな靴履いてるんだ?」 「そんなの知るかよ。出たな、おまえの靴への異常なこだわりが。そんなことばっか言ってると、いつまで経っても彼女はできないぞ」 「うるせえな、大きなお世話だ」 友人の創英が紹介してくれた女性は綺麗な人だった。し…

催事場

北海道物産展だか、駅弁フェアだか、細かい内容は忘れてしまったが、僕が中学生の頃に近くのデパートで行われていた催事場で出会った女の子が忘れられない。女の子はバンダナを頭に巻き、汗を額から滴らせながら「いらっさえ! いらっさえ!」と叫んでおり、…

8Q84

2009年5月に発売されベストセラーになったある小説をご存知だろうか。わたしはその小説を読んですごく感銘を受けた。とてもおもしろかった。感激した。不思議だった。さすがは何十万部も売れたベストセラーは人の心を打つ力があると思った。作者はきっと想像…

カナダはずるくない

山本新五郎というものすごく日本的な名前なのにもかかわらず、その男は欧米人のような顔立ちをしていた。その男はやがてカナダというあだ名をつけられるようになった。カナダはとにかくよくモテた。女性たちはバレンタインデーになると、カナダの家の前に行…

本の仕分け(出版刷新会議)

元教師で文部大臣あがりの首相・真塩三作(ましおさんさく)の政策はことごとくハズレだった。経済にしろ、外交にしろ、何ひとつ国民の心をとらえることができず、2年間で首相の座を去ることになった。ただ、今振り返ると、真塩が行っていた政策のひとつは、…

ささくれエムコさん

エムコさんはいつもささくれを気にして、指を隠している。ササローはささくれを優しく撫でるのが上手いため、エムコさんの指先に触りたくて仕方がなかった。 エムコさんとササローは同じ学校の同じクラス。なのに、話したことはない。話したことのない人間が…

審判とその家族

ワールドカップの審判ができるという連絡をもらった夜、娘は飛び上がって喜んでいた。妻も涙を流し、家族3人でつつましく祝賀パーティと称してケーキを食べた。 わたしのそれまでの人生は決して華やかなものではなかった。昼間は近所にある職業学校で木工を…

サンシャインバター

すっごく僕イチ押しの女優がいるんだ、嵯峨野マナコ。知ってる? 炭酸飲料とか消費者金融のCMとかに出てるあの子だよ。嵯峨野マナコのためなら僕なんでもするよ。文字通り、なんでもだ。嘘じゃない。誓ってもいい。 嵯峨野マナコが出演した映画は全部ブルー…

パンチ(パソコン音痴)の会

パンチの会会長の柳瀬金次郎は、昨日の会合に欠席した会員の1人1人に電話をした。たとえば初期会員の1人である棟方新造との会話はこうだった。 「やい棟方。なんでおまえ昨日の会合来なかったんだよ」 「柳瀬さん、俺、もうパンチの会やめます」 「おまえ…

退屈の実

こんなに刺激に満ちた世界の中で、退屈という言葉を使う人がいることを僕は信じられない。空の青さやカレーの辛さ、チョコレートの甘さや煮干の旨みとか、世界はどこをめくっても面白いことしか出てこないというのに。 今日も父親が寝転がってテレビを観なが…

デート・ウィズ・プーチン

片瀬佐和子は金曜日の夜、ふとレンタルしてきた映画『デート・ウィズ・ドリュー』を観て、感動と興奮のあまり眠れなくなってしまった。この映画はドリュー・バリモアの大ファンだった男が、なんとかドリューの周囲の人間に近づき、本人に会いに行くというド…