2010-05-01から1ヶ月間の記事一覧

だ液のチカラ

だ液の素晴らしさを知らない奴らが多すぎる。 そんな怒りを抑えることができず、喜一は論文を書くことに専念した。だ液を粗末に扱うことをやめれば、人類は病気やストレスなどに苦しめられることなく、もっと幸福になれるはずなのだ。 喜一は小学校5年生の…

ユーアーユアユア

「ユーアーユー! ユーアーユー!」 新橋の駅前。拡声器を通じて、白装束を着た集団が決まったフレーズを何度も何度も叫ぶ。彼らの名前は「ユーアーユアユア」。最近勢力を伸ばし始めている一種の宗教団体で、「君は君である」という概念を広めることで知ら…

ちょっとだけ絶望してみようか

片尾甚太と金城丸太は小学校時代からの親友だった。甚太と丸太は日野市で生まれ育ち、今では2人とも社会人として別の会社で働いている。入社してから今年で5年目になるが、今でも会社帰りに2人で会うことも多かった。 この日、2人は神田にあるドトールコ…

擬音ザ・サード

日本語は永遠に不滅です! そんなことを言ったのは、どこかの県の言語学者だったろうか。あの時代を懐かしんでも、もう戻ることはありえない。 紙の本が完全に絶滅し、電子書籍が一般化した2020年頃を境に日本語のボキャブラリーの低下は減少の一途をたどっ…

自信はコンビニで買おう

オトコ香る、コバラピタリガム、眠気スッキリガムなどのヒット商品で知られるクラシエフーズは24日、コンビニ限定で「自信」を販売することを発表した。価格は610円。この値段が果たして妥当なのか、そうでないのかは不明だが、発売初日には全国のコンビニに…

私の頭の中は消しゴム

人はこのようにして、ゆるやかにダメになっていくのか。沢井一志はウイスキー片手にロッキングチェアーに揺られながら思った。沢井はふと足元に落ちていた紙とペンを取り上げ、数式を書こうとした。しかし、頭の中には数式はおろか、簡単な数字ですら出てこ…

噛みたいロングヘア

髪の長い女が好きで好きで仕方がない。それはもう、長ければ長いほどいい。これまで付き合ってきた女は全て、髪を切らせなかった。中には毛先だけは揃えさせてくれと懇願する女たちもいたが、そんなのはダメだ。お話にならない。長い髪は毛先が乱れているの…

ぼんやりオープンマウス

口を開けるなと上司に叱られて以来、一生懸命口を閉じようとするのだが、どうやら僕の口は閉まるようにはできていないらしい。結局、ぽかんと口を開けたまま会議に出席し、お客さんと応対し、夜中まで企画書を作っていた。すると、上司が気味悪いほど優しそ…

あの子のまつ毛は杏仁豆腐の匂い

「まつ毛レビュー日記」。 順太が帰宅した時に必ず見るサイトの名称だ。このサイトでは、管理人のシンペイさんがその日すれ違った女子のまつ毛を思い出してレビューするというものだった。順太はもともと筋金入りのまつ毛フェチで、男たるもの誰であれ、女の…

辞書は愛をつなぐ

久しぶりに家に帰ってきた父親は背中に大きな荷物を背負っていた。母親は父親とは口を聞こうとはしなかった。自分が追い出してしまったという負い目があったからだろう。父親と私がテーブルに向かい合って座り、母親は台所で汚れてもいない皿を音も立てずに…

敬語のない国

2012年の夏ごろから、日本で敬語を話す人間が少なくなった。相手が教師だろうと上司だろうとかまわずに、フランクなタメ口を聞く人間が増えた。別にそれは年齢や性別に関係ない。日本の言語から敬語という概念がなくなりつつあった。 この動きを不自然に思っ…

会費おじさん出没

「会費を集めまーす」 そう言って、スーツを着た50代くらいのおじさんが車両に乗る人々のもとを回り始めた。いきなりの出来事に戸惑う人々はどうしていいのかわからず、お互いがどう出るか牽制しあっている。最初は誰も何も言わなかったが、ひとりの勇気ある…

アングロサクソン氏の憂鬱な日々

今日もまた、アングロサクソンというデタラメな名前を名乗るおかしな男が囲碁教室にやってくる。笹子はこれを恐怖する。アングロ氏が笹子の経営する囲碁教室にぶらりとやってきたのは、先週の木曜日だった。笹子の囲碁教室では見学は自由だから、たまにこう…

ファンタジー作家になりたい

システムエンジニアとしての限界を感じた松田コウスケは両親と面会し、職業を変更したい旨を話すことを決めた。息子が鬱病寸前の状態なのは知っていたから、両親はこの申し出を快く引き受けた。会談場所は中野坂上駅の駅構内にあるドトールだった。 コウスケ…

米責めプレイ

うーうー、うーうーと鳴るサイレンの音で目が覚めた。何だろうと思って窓の下を見るとサイレンは止まった。どうやらまたこのマンションから1人運ばれることになるらしい。 CMの力は怖い。今日も朝から晩まで、米を食べようという内容のCMばかりやっていた。…

ナッシン愚太郎

愚太郎は将来何者かになると日本国民の誰もが思っていた。 愚太郎は「国民の弟」というキャッチフレーズで、生まれた時からスターになることを宿命づけられていた。愚太郎は皇族のように特別な家柄のわけでもない。ただ単に練馬区に住む共働きの夫婦で生まれ…

パンチドランクいい人

「足立くんって、とってもいい人ね」 クラスで一番の美人の益子増子にそう言われ、足立恭二は喜びのあまりガクガクと膝が震え、ほとばしるエクスタシーが脳に鮮やかな幻覚を見せた。足立は皇居のような場所で数万人の日本国民たちに囲まれ、「いい人! いい…

威嚇する駅員

まったくもう、困っちゃうんだな。僕が通勤の時に使う武藤高原駅はいまだに自動改札が導入されていなくて、駅員が切符を切ってくれるんだけどさ、この駅員ってのが曲者でさ。切符を切るたびに、目をひんむいて「シャー!」って威嚇するんだよ。昔なんかの特…