2009-01-01から1年間の記事一覧

にんじんおもい

「どれだけ重い荷物を持ったかで、その人の価値が決まる」 ――――――――――――――『重量論』ジェシカ・パーソンズ 「荷物が重くて歩けない!」そう言って、早苗は突然道に倒れ込んだ。 「たかがにんじん3本買っただけじゃないか。いいかげんなことを言うなよ」貴志…

イブキックスの三十路狩り

「山梨県甲府市で三十路狩りが頻発!」というニュースが、何年か前から世間を騒がせている。この事件は、リーダー格のイブキックスと名乗る男(22)が10代と20代の部下たちを引き連れて30歳以上の人間を次々と襲撃するというものだった。 襲撃の手口としては…

国から私への贈り物

「パパが今まで一番うれしかったのって、誰からのプレゼント?」 「決まってるじゃないか。国からのプレゼントだよ」 ―――――――――――――――――『国が好き』サムソン・シェパード 国が私にくれたもの。それは私の名前。私の両親は優柔不断で、私が生まれた時に名前…

サンロードに棲むあいつ

吉祥寺駅を降りると見える伝統ある商店街、その名もサンロード。皆様はここに、ある怪物が出現するのをご存知だろうか。怪物の容姿はとても醜悪だ。顔はカメムシ似。痩せこけているのに、下腹がプクッと出ており、誰もが目をそむけてしまう。この怪物の名前…

おみこしドライバー翔(カケル)

翔は先週合コンで出会ったデパガの美恵ちゃんをドライブに誘った。美恵ちゃんはドライブが好きだというので、最初のデートに持ってくるのが得策だと思ったからだ。待ち合わせは志木駅だった。美恵ちゃんは相当気合いが入っているのか、手作り弁当を持ってき…

新潟から東京へ

訪問販売の仕事が終わり、新潟から東京に向かう新幹線の中で、私は本日の成績について独り反省会を行った。本日売ることができたのは、3枚刃のシェーバーと健康サンダルの2点のみだった。2点の合計は3600円。利益としては2000円くらいだろう。8時間ほど…

じゃじゃ耳ならし

知り合いにチケットが余ったからと連れられて、とある小劇場で『じゃじゃ馬ならし』というタイトルの演劇を観劇してきた。そこの劇団の役者たちはどこかの事務所の新人さんたちを集めただけなのか、演技力が今ひとつ乏しく、全体的には満足することはできな…

ヘイヘイドッジボール

2010年、東京湾にサメが増えた。すると誰も寄り付かなくなり、海は閑散とした。 しかし、2011年からおかしな遊びが流行した。サメにドッジボールを当てるというものだった。サメのヒレはドッジボールが当たるとドムッといい音がする。みんなこの音が聞きたく…

とてつもなく滑りやすい廊下

新宿三丁目にあるファミリーマートはちょっと特殊な造りで知られていた。表通りに面している入り口はなく、隣にある大手生命保険会社のエントランスに一回入って、そこから左手にある短い廊下を突き進むと辿り着くことができる。保険会社の就業時間が終わっ…

著書がBARA BARA

将来を悩む少年たちのために、様々なお仕事を紹介する『13歳のハローワーク』的なテレビ番組『おしごとナビゲーター』。この番組のディレクターである佐々木ケンイチは頭を抱えていた。本日生放送に来るはずだった、作家の権藤権兵衛が持病の外反母趾が悪化…

昆虫学者と武蔵くん

「虫のこと好きじゃないのに昆虫学者やってるんじゃねえよ!」 武蔵くんの手にあったコップ酒が私の頬に引っかけられた。私はカウンターの上にあるおしぼりを広げ、ぬるくなった熱燗のしずくを拭いた。 私が黙って何を言わないのを見て、武蔵くんはさらに言…

しまちゃんの日

島野社長がまた妙なことを言い出した。毎月27日を「しまちゃんの日」として、社員に祝ってほしいというのだ。27日と言うのは社長が小学校で野球部に所属していた頃、憧れの古田選手の背番号27をつけていたからで、「しまちゃん」と言うのはその時のあだ名だ…

ロシアンのんびり屋

中学の時に国語を教えてくれていた古村先生がロシアへと旅立った。先生はロシア文学が大好きで、あの激動を絵に描いたような環境の中で一生を終えたいとのことだった。 古村先生に熱をあげていた同じクラスの水上啓介は、高校を卒業したら先生を追いかけてロ…

サムトキン詐欺に気をつけろ

空気中の成分の中に、海苔とよく似たサムトキンという物質が発見された。サムトキンは0.0000000025%と怖ろしく微量ではあるが、人体への影響は大きい。生物はサムトキンを吸うことで、悪夢を見ないように抑制がかかっているのだ。つまり部屋の換気が悪かっ…

キイナ色リバー

ドイツの旧東ベルリンにある「ジャクバクドドメトラ」というカフェに入ってみた。すごい名前だ。ジャクバクドドメトラ。それがどんな意味かどうしても知りたくて、アントニオ・バンデラス似の恰幅のいいウエイトレスに英語で尋ねてみる。「このジャクバクド…

ハアハアしちゃうぞ

カタノサトルはトランプのクイーンを見て興奮する男だった。あの悩ましげな瞳と慈愛に満ちたほっぺた、イルカのようにツンとすました口元…。 サトルは現実の女性に全く興味がなく、自身が働く農業系出版社からもらった給料のほとんどをトランプを買うことに…

恋人はザーザザー

大学時代の人気者、軽見さんに彼氏ができた。軽見さんは下北ファッションの似合う美女で、出会う男は必ず一度は恋に落ちた。そんな軽見さんはなぜかずっと彼氏がいなかったのだ。 そんな彼女に彼氏ができたことを祝って、軽見さんにフラれた男たちが軽見さん…

ウメボシ(=ジョン・マッカーシー)

ジョン・マッカーシーがいつも通勤に使う電車では、車内で弁当を食べる人が多かった。ジョンは目をつぶって、その弁当の具を当てるのが趣味だった。この日もジョンの予想は快調で、見知らぬ人が食べているものを次々と的中させていった。 食べ物というものは…

マンホール守の恋

今年で68歳になる間野守男が、石川県鳥越村の「マンホール守」をつとめて50年が過ぎようとしていた。間野は夜7時になると家を出て、夜が明ける朝の5時頃までロマンホールを守り続ける。 マンホールには様々な人間が集まってくる。誰にも言えない悩みをマンホ…

やせがた たがやせ

わたしの彼氏はとても乱暴者で、わたしはそこに惹かれた。 彼の鉄のような筋肉を見ていると、自分がいかに柔らかくてちっぽけな存在かがわかる。彼は痩せ型なのに、それを支える筋肉の量が尋常じゃない。わたしは映画を最後まで観ることができないほど集中力…

流星のモノローグ

26歳の名波洋治と28歳の加瀬秀太郎は代々木公園のベンチに並んで座っていた。この日はフォークグループ「新渡戸?否!象!(にとべいなぞう)」の結成以来はじめての会議の日で、2人とも若干緊張した面持ちだった。2人はこの日、最初のオリジナル曲のタイ…

声かけカードの乱

「おまえ、結局今まで、いったい何枚のカードもらったの?」 雄介は川沿いの土手に腰掛けながら、隣りに座る征男に聞いた。 「うーんと、70枚かな。全部捨てちゃったけど」 「70枚? だったら講演会2回できたな。バイトする必要なかったじゃないか」 「講演…

踊れ!胃と2

荻窪の古本屋ですごく変なタイトルの小説を買いました。 それは『踊れ!胃と2』。 『2』ということは『1』があるのでしょうか、ないのでしょうか。作者の名前はキシリア・ザビと書いてあるけど、そんな小説家の名前は聞いたことがない。こういう正体不明な…

間違いだらけの蟹工船

保坂が溜池山王の交差点で信号待ちをしていると、手前にいたエリートビジネスマン風の男の耳からピンク色の物体が現われた。最初は、耳に詰めていた綿が何かの拍子で外に飛び出て、それに血が付着しているのかと思った。しかし、その甲殻類らしい角ばった動…

ケイコとマナブと新人君

ケイコとマナブが部屋の中でせっせと自分探しに勤しんでいると、ピンポンベルが鳴らされた。ケイコがドアを開けると、そこには知らない男性がいた。この辺りは物騒だから、ケイコは警戒し、大声でマナブを呼んだ。マナブは急いで玄関にやってきた。「ハニー…

早く昆虫になりたい

正志の日課は毎朝、出社前の30分間を公園で過ごすことだった。この時間はちょうど昆虫たちにとって過ごしやすい時間のようで、てんとう虫やバッタ、カナブンやちょうちょなど、多くの虫の姿を見ることができた。現在、都会には虫の生きる場所が少なくなって…

逃げろ! 自称バンドマン

沖縄行きのフェリー乗り場に、男はいた。サングラスにマスクをかけ、頭にはニットキャップ。腕を組んで、よく寝ているように見えた。本木慎司が男の隣に座ると、男は目を覚ました。 「もう、フェリー行っちゃったよ」本木から男に話しかけた。 男は眠そうな…

リゴムゴの賛美歌

ある晴れた日の午後だった。美枝子が面白い図鑑でも買おうと本屋を訪れると、八百屋の角で仲良しの芳美の父親に会った。父親の名前は思い出せなかった。2人が会ったのは20年ぶりのことだった。 「ああ、誰だっけ」芳美の父親は一生懸命美枝子の名前を思い出…

僕は友達じゃない

薫の家に電話があった。電話の相手は小森と名乗った。小森は自分のことを「あなたの友達です」と自己紹介した。 薫は心当たりがなかったもので、「私に友達はいないと思います」と答えた。しかし、小森は大笑いして、「いるじゃないか、俺が」と言った。 薫…

脳みそ実験室

カタルはとても記憶力に自信がなかった。知識欲だけは旺盛なくせに、覚えることを次から次へと忘れていく。そのスピードたるや、マーク・クルーンのスピードボールよりも速かった。 自分の将来に悩んだカタルは、記憶力を試すために、友人のマメ太を呼び出し…