にんじんおもい

「どれだけ重い荷物を持ったかで、その人の価値が決まる」
――――――――――――――『重量論』ジェシカ・パーソンズ




「荷物が重くて歩けない!」そう言って、早苗は突然道に倒れ込んだ。
「たかがにんじん3本買っただけじゃないか。いいかげんなことを言うなよ」貴志は聞いたが、早苗は首を振るばかりだ。
「違うの、違うの。これ持ってみてよ。本当に重いんだから」
 そう言って早苗が手渡した荷物を持つと、貴志は腰を抜かしてしまった。「おふっ」思わず吐息が漏れる。
「ほらね、信じられないほど重いでしょ」
「な、何なんだ。一体これ何なんだ」
 そう言って貴志が袋からにんじんを出すと、それはただのにんじんだった。しかし、1本1本がまるでダンベルのような重さで腕を痛めつける。
「買った時はこんなに重くなかったのに…。これじゃあサラダが作れないじゃない」早苗が泣き始めた。
 貴志はそんな早苗の肩を叩いて言った。「きっと成長したんだよ。このにんじんは僕らの家に帰りたくないと言っているんだ。置いていこう。今日くらいにんじんがなくたって僕らはなんとかなるはずだ」
「そうね」早苗が納得した表情で立ち上がる。そして道路ににんじんを置いた。にんじんはさらに重さを増しているようで、道路が陥没してきているのがわかる。
「ほら見ろ。どんどん重さが増しているんだ。こんなの家に持って帰ったら命だって危ないよ」
「うん、わかったわ」
 早苗と貴志は肩を抱き合って家路を歩いた。にんじんはそのままメリメリ、メリメリという音を鳴らし、地中まで深く沈みこんでいった。