2010-01-01から1ヶ月間の記事一覧
シンディーはキャンディーだ。 彼女は生まれてこの方、誰にも食べられたことがなく、それだけが唯一の自慢だった。彼女の居場所はグラスゴー大学の自習室。ここでは休憩する学生たちのために、テーブルの上にキャンディーが用意してあった。キャンディーはミ…
今浜和子が所属する演劇部では、お話作りが流行っていた。 その流れはこうだ。毎週金曜日に授業が終わると、部員たちが部室に集まる。そして、下校を促すチャイムが鳴る6時までダラダラとおしゃべりに興じる。だいたいみんなの授業が終わるのが4時ごろだっ…
ジェシー・マコーガンが日本人の鹿島恭平と結婚したのは5年前のことだった。ジェシーが日本に留学している際に、恭平のやっている手品ショーを路上で見たのがきっかけだった。アメリカの田舎で育ったジェシーは手品というものを近くで見たことがなく、いっぺ…
日高好太郎は、通行人がみんな自分のことを見ているような気がした。君も、そこの君も。ユーもユーもユーも…。でも、もしも今、彼らが日高のことを見て笑っているということは、みんなバカということなんだ。かすかな優越感にしがみつきながら、恥ずかしさを…
オフィスで今、僕の中で流行っているのが、「そのまんまレモン」というお菓子だ。これは国内産のレモンを砂糖とはちみつでコーティングして甘酸っぱく仕上げたもので、自然の美味しさが口の中にほんわりと広がるのがよいと思う。ケミカルなお菓子は僕は苦手…
2010年6月14日、遂にワールドカップの日本戦が始まった。相手はカメルーンだ。我が家ではピザとビールを買い込み、応援の準備は万全だった。 前半が終了した時点で、スコアは0対0だった。 「日本はなかなかの健闘を見せているね」私は妻に話しかけた。 する…
近所の角でミルク職人をやっている駒田徳雄は少し不気味な外見で、その町の有名人だった。ミルク職人と名乗ってはいるものの、実際にミルクを作っているところは誰も見たことがない。「ミルク職人 駒田」という看板だけは出ているが、従業員がいる様子もない…
亜流(ある)雅彦は普通でいることが大嫌いな男だった。長野県の高校を卒業して、自分はミュージシャンとして生きていくんだと決意して上京するも、憧れのライブハウスなるものに出演してみると、自分を同じような野望を考えている輩があまりにも多いことに…
「ねえ、チカ。早く行こうよ」 「ちょっと待って。この仕事だけ終わらせたら行くから」 「じゃあ、先に行ってるよ」 「うん、そうしてくれるかな。ごめんね」 この2人、チカとアキはモグラ体操のレッスンに向かおうとしていた。今、OLたちの間で大流行して…
満員の通勤電車に、オレンジ鉄鋼入社2年目の牧田と後藤は乗っていた。2人は沿線が同じだったから、よくこうして一緒の電車に乗り合わせる。牧田は後藤に言った。「昨日さ、夜おもしろい映画がやっててさ。ついつい最後まで見ちゃったよ。終わったのが3時半だ…
地球温暖化が進行した影響により地球上からブドウが絶滅した。他にもいくつかの果物が絶滅したが、ブドウは特別だった。ブドウがなくなるとあれば、ワインがもちろん作れなくなる。ワイン党の人々は途方に暮れ、朝から晩まで泣きはらした。漫画の『神の雫』…
2031年のドラフト会議で阪神タイガースの1位指名を受けた佐々木清志郎はプロ野球で結果を出し、ついには海を渡りメジャーリーガーとして活躍することになった。アメリカ側は、キヨシローが呼びにくいということでニックネームを用意してくれと佐々木本人に注…
2010年代前半、マスコミが予測するよりも早く深刻な草食男子化現象が進み、地球上から暴力という暴力が消え去った。誰かが努力してそうなったわけではない。いつの日か、人間の本能から人を傷つけたいとか、物を破壊したいという欲求が消え去ってしまったの…
「ほかの男と関係し、俺に聞かせてくれ。そうすることで、俺は生きられる」 ――――――――――――――――――――映画『奇跡の海』より 黄濁した海にドブドブと飛び込む人々の姿を横目で見ながら、シンペイは3年前に友達のワトソンが言ってた言葉を思い出していた。 ワトソ…
あたしの恋人が1月1日になった瞬間にメールをよこしてきた。 付き合って5年も経つがこんなことは初めてで、あたしは不審に思いながらメールを開いた。タイトルはごくごく一般的な「あけましておめでとう」だった。それがかえって不気味だった。 メールの…