2010-01-01から1年間の記事一覧

34億5千万人との結婚リターンズ

「今年でこのブログを更新するのは最後になるかもしれません」 正春が、自身の愛読するブログ「34億5千万人との結婚」を開くと、いきなりそんな不安な書き出しが目に飛び込んできた。ブログの作者の水木吾郎氏は続いてこう続けていた。 「理由は妻にこのブロ…

ワルクチ症に愛の手を

「ワルクチ症ですね。間違いありません」 医者からこう告げられたときは正直ホッとした。私は小さい頃から人の悪口を言わないと気がすまない性質で、仲がいい人でもみんなが尊敬している人でも、誰彼かまわず悪口を言ってしまうため、よく嫌われた。今では友…

偶然の苔アイドル

マンモス団地に住む専業主婦・苔畑朔美(こけはた・さくみ)22歳は、年甲斐もなくアイドルを目指していた。小さい頃に一度夢見たアイドル。16歳から19歳まで、ヴォーカルやダンスのスクールに通っていたが、19歳の時にナンパされた男にベタ惚れしてしまい、…

嫌いな言葉:プライベート

毎週毎週、結婚相談サイトから送られてくるプロフィールメールに食傷気味だった私は、今ではほとんどそれらに目を通すことはなくなっていた。ただなんとなく、登録を解除するのが面倒くさかったから、次々と受信ファイルが知らない男たちのプロフィールで埋…

カパンクバンドクロニクル

カパンクバンドの始祖を言われているモスキートレスキューが先日解散を発表した。同バンドが活動した期間は約2年間。これはあのカパンクブームと時期をほぼ同じくする。 モスキートレスキューが結成されたのは2010年12月。元僧侶である片山勝男が蚊の解放を…

『POPEROU』

愛爾は10年ほど売れないバンドをやっている。というか、彼の人生はそれしかない。普段はコールセンターでアルバイトをし、稼いだ金は全てバンドに使っている。10年前にバンドをはじめた頃はメジャーデビューだ紅白目指すぞと意気込んでいたが、10年も経って…

イッヒの上にも3年

「3年だけ、3年だけ許してくれ。それでモノにならなかったらあきらめるから」 榎木がそう家族に約束してもう3年が過ぎた。3年前、榎木はそれまで勤めていた会社を辞め、憧れのドイツ留学を決めた。ドイツを選んだ理由は他でもない。クラフトワークが好き…

師走、東雲、火消しに奔走

12月になると夫婦喧嘩が増えるということを諸君は知っているだろうか? 家計が大変だったり、大掃除を旦那が手伝わなかったり、年賀状の進捗がちっとも進まなかったりと、その理由はいろいろだが、とにかく増える。そして時間帯別に分けると、夜半すぎから夜…

軽蔑仮面ケベンベン

うちの息子が突然「軽蔑仮面になりたい」と言い出した。息子は中学生にもなっていつもこうやって突拍子もないことを言うので、今回もまた思いつきでくだらないことを言っているのだろうと思っていたが、今回は少し違った。 話がなんとなく将来の進路について…

パッチワークの勝利

山永優斗が勤める食品会社ユモンである大事件が起こった。同社の社内で最も人気があると言われていた総務の“石丸ちゃん”こと石丸真澄が社内の男性3人と三つ股をかけていることが発覚したのだ。 優斗は実はその中の一人だった。優斗と真澄は結婚の約束までし…

ストーカー大学

ようやく突き止めた。中野の裏通りにあるその建物は、外見上は普通の雑居ビルにしか見えず、とても大学とは思えない。純太はビルの前にある電柱の陰に隠れて、生徒たちを待ち伏せした。 このビルの中にあるストーカー大学は、優秀なストーカーを送り出すため…

焦げ蔵の晩年

95歳になった橋本焦げ蔵(こげぞう)は、若干の体力の衰えを感じながらも1日30分の散歩を行うほどの元気はあった。焦げ蔵の朝は5時から始まる。まず自らの色彩感覚をを活性化させるために墨汁で絵を描き、腹が減ったら朝飯を食べる。そして日課となっている…

ゴシップの国

ゴシップの国では、ゴシップ以外の事柄について話すことを歓迎されない。学校では、ゴシップの歴史をはじめ、現代ゴシップや古典ゴシップ、ゴシップがもたらす経済効果、ゴシップの倫理と道徳、ゴシップの聖書(宗教)、世界のゴシップ(地理)、ゴシップを…

90ズキッズ

「ったく、クラスメイトってのはどうしてこんなにダッサい奴ばかり揃っているんだ?」 教室の一番うしろに座る田代圭吾がクラス全体に響き渡る声で独り言を言った。一瞬、議事進行を行う高田の手が止まったが、それでも高田は圭吾の意見は聞こえないふりをし…

痰イズマイフレンド

季節の変わり目に僕は友達に会える。 最初、友達に会ったとき、僕はそれを友達だと気づかなかった。今思うと、なんて浅はかだったのだろうと思う。僕は物心ついてから何万人もの友達と一緒の時間を過ごしながらも彼らと言葉すら交わさなかったのだ。 だから…

子供の頃にいばってたあの人たちはどこに行ってしまったのだろう

私が子供の頃、町で一番目立っているお兄さんたち3人組がいた。名前は桜井、列川、見城と言い、それぞれサク、レツ、ケンと呼ばれていた。3人揃うと「炸裂拳」という通称で呼ばれていたこのお兄さんたちは、いつも一緒につるみ、相手が大人だろうと子供だ…

ルールがあれば何でもできる

「ちょっと待てよおまえ、そこにルールはあんの? ルールは?」 これが羽田が会社に入社した時の上司の口癖だった。羽田は最初、なんておかしな言葉の使い方をするやつだと思って聞き流していたが、いつのまにか「ルール」というのは社内の流行語となった。…

ポコリがあればいいじゃないか

毎月1日、ポコリが新製品を発表する。これは僕にとっての紛れもない生き甲斐だった。 僕は月の前半半分は発表されたポコリの新製品の余韻に浸って過ごす。そして月の半分を過ぎると、来月1日に発売されるポコリの新製品を楽しみに生きる。 それ以外、僕には…

トゥナイト、キスがまぶしくて

湾岸通り沿いにレクサスを走らせていると、ラジオでサザンがかかる。陽子はサザンが好きだった。サザンの歌を聴いていると、図書館で働いていた20代の頃を思い出す。あの頃は恋とか愛とかがどういうものなのか全然わかっていなかった。 陽子が渋谷に到着した…

快速電車あさぎ

来た。来た来た。柳本港晴の頭の中に、電車の汽笛音と走行音がこだまする。会議の進行状況はすっかり滞っており、そろそろ現れるのではないかと思っていたその矢先だ。柳本は会議を進行する尾崎の背後に近づき、耳元で何かささやいた。尾崎はきょとんとした…

ポケラジン

「おまえはポケラ人だからなあ…」 担任教師のイトカワの言葉を聞いて、僕は耳を疑った。指導者がそのようなことを言うようになったらこの国は終わりだ。 イトカワの言葉に賛同したクラスメイトたちが僕に筆箱を投げつける。「ポケラ人! ポケラ人!」といっ…

ジェンセンが本木の新譜を絶賛!

ジェンセン真田が初めて本木一太郎の作った音楽を絶賛したことが話題になっている。 ジェンセン真田はストリートミュージシャンとして20年以上活動し、コンサートの開催を告知すると2000人が集まるという人気者。それとは対照的に本木一太郎は塾講師と果物屋…

塵も積もれば愛となる

今日はいい塵を見つけた。形といい、柔らかさといい、小ささといい、この上ないほどにベストな塵だった。昨日見つけた塵は妙な色かたちをしていたから、僕はとても幸せな気持ちになった。明日が来るのが楽しみだ。 たかが塵、されど塵である。塵なんてそこら…

コバンザメなめんなよ

トコスコキマロン社に転職して1週間が過ぎた。いま俺はこの会社の中で誰が一番力を持っているのかを見極めている。候補は3人いる。声が大きいが言っていることは全然面白くない長瀬と、いつもムスッと黙り込み周りから気を遣われている田代、全ての人に愛…

胃蚊垂と絵下垂

大阪でひとりの少女が、ある言い間違いを元にいじめられていた。 「おまえって体型が胃下垂だよな」 「え? 私、胃の中に蚊なんていないよ」 「は? もしかしたらおまえ、胃下垂って蚊のことだと思ってるんじゃないだろうな」 「胃に蚊が入ってしまうから胃…

舌打ちマシンガン

「んつぇつぇつぇつぇつぇつぇつぇつぇつぇ!」 どこからともなく舌打ちの連射の音が聞こえてきて、半蔵門線に乗っている乗客たちは身体に緊張を走らせた。 舌打ちマシンガン。 そう呼ばれる男は毎朝ラッシュ時に半蔵門線の青山一丁目駅から乗り込み、京橋駅…

しあわせ大魔王

僕は今日、自分自身を“しあわせ大魔王”に認定した。世間には可愛い彼女がいたり、年収何百万円ももらっている奴もいるが、僕よりも幸せな奴はおそらくいないだろう。よって、僕がこの地球上で唯一無二のしあわせ大魔王として君臨することになるのだ。 浮かれ…

くずれそうな建物

雨があがり、虹が空にかかる。三森幸三はそれを機にレモンティーを淹れることを決める。マグカップを取り出すと天井からパラパラと埃や砂が落ちてくる。幸三は気にせずに、砂埃入りのレモンティーを飲む。 幸三がこの建物に暮らすようになって2年が過ぎた。…

四行しか書かなかった男

私は、文学研究者として後世のためにぜひとも彼のことを記しておかなくてはならない。みなさんはあの永津淳平を覚えているだろうか。 永津淳平は、永津静雄と久保政子という2人の天才小説家の間に生まれたひとり息子である。両親が共に文学史を変えるほどの…

それって何か違わない?

小学校の教師を25年続けてきてわかったことがある。子供たちを最も萎縮させ、私の言いなりにする魔法の言葉だ。それは、「それって何か違わない?」である。私が子供たちに向かってこの言葉を言うと、どんなに品行方正な生徒でも、自分が何か間違えたことを…