師走、東雲、火消しに奔走

 12月になると夫婦喧嘩が増えるということを諸君は知っているだろうか? 家計が大変だったり、大掃除を旦那が手伝わなかったり、年賀状の進捗がちっとも進まなかったりと、その理由はいろいろだが、とにかく増える。そして時間帯別に分けると、夜半すぎから夜が明けるまでのいわゆる東雲と言われる時間帯が圧倒的に多いのだ。
 私こと炎のストッパー=ジュンG(中島順二)はこの町の夫婦喧嘩を仲裁する抑えの切り札と呼ばれてきた。私は独身で無職のため時間が有り余っている。だから、こんな面倒くさい仕事は私にしかできないのだ。
 今日も私は深夜の3時ごろから町を徘徊する。夜間パトロールの警官とも顔見知りだから、怪しまれることはない。
「よう、ジュンG! この先の3丁目の西岡さんが夫婦喧嘩をしていたぞ。いっちょ止めてこいや!」
 警官に言われ、私は「がってんだあ」と早歩きで現場に向かう。しかし西岡家だと? あそこの夫婦は仲がいいことで有名で、喧嘩はしないはずなのだが…。
 現場に着き、私は壁に耳を当てて話し声に耳をすます。その内容から察するに、年賀状のプリンターが壊れてしまったことに妻が愚痴を言い、仕事のイライラが溜まっている夫が妻の料理はまずいと言っているらしい。
 私は七色の変化球の中から今日の決め球を選ぶ。こういうケースにはプランDが望ましい。少しばかり手荒なやり方だが仕方がない。私は窓を割り、家の中に侵入する。私の顔を見るなり、西岡夫人が「ほら、ジュンGくんが来ちゃったじゃない。あんたがグチグチ言ってるからよ」と言う。西岡氏は「なんだと! 喧嘩を吹っかけてきたのはおまえだろ!」と言う。
 私はそんな声に耳を貸さず、スピッツの『楓』を大きな声で歌う。私の歌声は人よりも2音階くらい外れているようで奇妙に響く。それを聞いた夫婦が耳をふさぐ。
「やめてくれ! やめてくれ! 喧嘩はやめるから! やめるから!」
 よし、これにて任務は完了だ。私は割った窓もそのままに西岡家を後にする。今夜の火消しは思ったよりも簡単だった。もうすぐで夜が明ける。私は缶コーヒーを買い、地面に座ってグビグビとやる。しかしそんな休息もほんの束の間、彼方からまた夫婦喧嘩の声が聞こえてくる。私は一息つき、再び現場に向かう。今日は忙しくなりそうだ。