2010-04-01から1ヶ月間の記事一覧

後藤渡辺

私が通う中学校では、ゴールデンウィークをGWと表記してはいけない。思い返すのも怖ろしい、恐怖の思い出が染み付いているからだ。 私が中学1年生の時、後藤渡辺と名乗る生徒が転校してきた。どう考えても苗字が2つ並んでいるような、この変わった名前の生…

俺のカトウ Dear My Kato

俺はカトウが好きすぎる。 銀だこハイボール酒場で生ビールを飲みながら、シンゴはテーブルをカリカリと引っかいた。シンゴがカトウと出会ったのは大学3年の時にやったコンビニのバイトだった。シンゴはカトウの趣味や物の考え方に心酔し、有意義な大学生活…

うるさいパソコン王決定戦

ほんの10分ほど前、実にくだらないバラエティ番組がテレビで放送されていた。パソコンのキーボードを叩く音が日本一うるさい人間を決めるというコンテストで、参加した人間たちは車をスクラップするような轟音でベキッ、ベキベキッというノイズを鳴らしなが…

子供たちの奇妙な遊戯

さっきさあ、俺が公園でのんびりランチ食べてたらさ。変な光景を見ちゃったんだよね。小学生くらいの男の子が、8人で遊んでたんだけどさ、その遊びって言うのがすごく変なんだ。 グループの中には1人リーダーみたいなのがいて、そいつが遊びのルールを仕切っ…

自慢したくて胸が張り裂けそうだよ

ここんとこめっきり自慢話をする機会が少なくなった。自分の話ばかりする男はモテないという考え方が幅をきかせているため、えんえんと自慢話をしてしまうと白い目で見られるのがわかる。俺が高校生くらいの頃はそんな風潮はなかった気がする。俺が自慢話を…

わが妻、ミランダ

横浜ベイスターズに所属する鉄人・小柴六郎は極端なネギフェチとして知られている。彼は小さい頃から親が三食全てネギしか食べさせなかったという超偏食傾向の家庭に育ち、だがそれが病気にならない丈夫な身体を生んだのだ。 小柴の極度のネギ好きは仲のいい…

日本(こばやし)

ある時期からお札の右下に小さな字で「こばやし」と書かれたものが出回るようになった。警察は総力を挙げて調べたが、単独犯でないことがわかった。筆跡がどれもあまりに違うからだ。あらゆるお札に「こばやし」と書かれているものだから、海外から来た観光…

私にはやりたいことがある

会社の同僚の真中タダシの趣味は、人に「やりたいことは何ですか?」と聞くことらしい。真中はたいてい初対面の相手にこの質問をする。仕事上の付き合いでしかない人にもだ。俺はそのクセやめたほうがいいぞと忠告するんだが、真中は絶対やめない。この瞬間…

お母さんはストーカー

会社の同僚とランチを楽しんでいると、同僚が僕の席の後ろにチラチラと目をやる。 「どうしたんだ?」 僕が聞くと、同僚は答える。 「いや、おまえの後ろの席の人がおまえのことをさっきからじっと見ているんだよ」 僕が振り返ると、そこには母がいた。やっ…

かりそめの現代語史

はじまりは埼玉県にある上尾市の高校で、1人の女子高生が合格発表を見に行く時に「かたはらいたしー!」と言ったことにあると言われている。仮にその女子高生の名前をエミールとしよう。その瞬間、周囲にいたエミールの友人たちが、「何それ!」「ガチで新し…

それ全部短編ですませちゃえば

平成の怪人と呼ばれた棚田ギュコウは映画・小説・歌手・政治家として圧倒的な才能を思いのままに発揮していた。平成22年から32年の10年間は、元号を棚田と変えてもいいのではないかという議論が本気で交わされた。一部のコアなファンたちは、堂々と平成22年…

季節と戦った女

4月のある日の夜、一向に暖かくならないこのニセモノの春に腹を立てた柏戸美樹は、今年の春を今後一切なかったことにしようとした。つまり無視してやろうとしたのだ。 季節にここまで真っ向から抵抗した日本人は初めてだろう。しかも私は女性だ。これはもし…

ペイヴメント、空へ

木村拓也コーチの訃報を見て落ち込んだ私はその日、仕事が全く手につかなくなっていた。私は女でありながらも男たちが尻込みするほどの野球オタクで、木村コーチには何度もサインをもらったことがあった。丸田さんが一番好きな選手は?と会社のおじさんたち…

わたしの未亡人

朝8時になると、あの人がマンションの玄関を出る。そしてわたしはそれを3階の窓からこっそりと眺めるの。わたしの未亡人。 あの人が住んでいるのは何階だかわからない。名前もわからない。ただ、うちのお父さんとお母さんが、「ほら、あの未亡人の…」と言っ…

淡水戦隊サワガニン

「サワガニか、ビジュアルとしては面白いかもしれないな。ただ、今回の君のプロットだと甘いよ。サワガニであると謳う以上は、もっと事実に即したものじゃないとダメだ。このまま放送したら、生物学者のお偉いさん方から、間違った認識を子供に与えてしまう…

まつ毛売りの少女

東京都葛飾区に住む少女、長野貴美子は仕事を辞めてから毎日のように路上に店を出し、まつ毛を売り続けた。彼女は勉強もスポーツも得意でなく、小さい頃から褒められるものと言えばまつ毛の長さだけだった。「少女マンガのようだ」と初めて会う人には必ず言…

“は”と“そ”のあいだの音

その年で還暦を迎える美島幸男が、居酒屋で友人らと還暦祝いのパーティを開いていた時のことだ。美島は悪友の六角達也から妙なことを聞いた。 「最近、若者の間で、“は”と“そ”の間の音が流行っているらしいぞ」 「なんだそれ? またすぐ消える流行語のひとつ…

ドラえもん のび太とレンタルインド人

今日、俺の家にレンタルインド人なるものがやってきた。俺が住む板橋区では、他の区よりも区民の国際化をはかるために今年度からレンタル外国人を各家庭に派遣するシステムが採用された。 板橋区役所が考えるところによると、日本人は外国人と触れ合う機会が…