日本(こばやし)

 ある時期からお札の右下に小さな字で「こばやし」と書かれたものが出回るようになった。警察は総力を挙げて調べたが、単独犯でないことがわかった。筆跡がどれもあまりに違うからだ。あらゆるお札に「こばやし」と書かれているものだから、海外から来た観光客は、まず日本人にこの言葉の意味は何だ?と聞くようになった。こばやし問題はやがて国会でも取り上げられるようになり、なんとしても解決しないと、日本が別名「こばやし」と呼ばれる日も遠くない。
 しかし、警察たちが右往左往している間に「こばやし」はどんどん広まっていった。ある時期に調査員が調べてみたところ、2010年の4月20日現在で、「こばやし」と書かれたお札は2億6千万枚もあるということだった。とてもそれだけのお札を回収するのは不可能なだけに、政府や警察もある時期から動くことを一切やめた。こうして日本のお札には「こばやし」と書いてあるのが当たり前となり、海外の人間は当たり前のように、円の代わりに「こばやし」という単位を使うようになった。つまり、ホテル1泊3000こばやし、牛丼1杯250こばやしと言うように。

 警察の極秘調査書によると、事件から5,6年が過ぎた後に、犯人の一人が名乗り出たというが、表ざたにはされなかった。現に、「こばやし」という響きが柔らかくて面白いということで海外からのイメージアップにつながったのだ。今さら事件にする必要もなかった。やがて、日本銀行は誰かに「こばやし」と書かれる前に、正式に「こばやし」と印刷するようになった。
 明るみにはされなかったものの、一応この事件の犯人が供述した内容をここに記しておこう。この事件はインターネット上で大きな勢力を誇る小林会が自分の生きた証をお札に刻みこもうと言って始めた運動だった。小林会とはその名の通り、小林性を名乗る者たちによるコミニティだ。このサイトには小林会しかアクセスすることができないため、小林以外の人間に中で何が起こっているのかが漏れる心配はない。どうやら小林会のメンバーには警察関係者も政治家もいたらしいが、その全てが共犯だったのだ。もちろん小林麻央小林よしのりなども共犯者だったと言われている。こうして小林会の思惑通り、「こばやし」という名前は国を代表するまでの固有名詞となったのだ。