ポコリがあればいいじゃないか

 毎月1日、ポコリが新製品を発表する。これは僕にとっての紛れもない生き甲斐だった。
 僕は月の前半半分は発表されたポコリの新製品の余韻に浸って過ごす。そして月の半分を過ぎると、来月1日に発売されるポコリの新製品を楽しみに生きる。
 それ以外、僕には何もないのだ。
 僕は恋愛にも興味がないし、まず何よりも彼女ができる気配がない。お酒や食べ物にも興味がないし、毎日100円ショップのレトルトカレーでやっていくことにも苦を感じない。7年間も同じアルバイトをやっていて全然社員にしてくれそうな動きもない。給料だって同世代のサラリーマンの10分の1ほどしかもらっていないが、そもそも僕はポコリの新製品さえ買えればお金なんて必要ないのだ。
 僕がここまでポコリのことを熱弁すると、たいていの人は「ポコリ? 何それ?」といった反応を返す。それもそのはずだ。ポコリは岡山県の小さなお菓子メーカーが作っている遊び心溢れるお菓子のことで、コンビニやスーパーにも売っていない。そのあたりのマイナー感が僕をここまで熱狂させるのではないかという指摘は否定しない。
 でも僕は気づいてしまったのだ。僕の人生はポコリさえあればそれでいいと。みんなは笑うだろうが、このことに気づける人がどれだけいるというのだ? ほとんどの人が、自分の一番大切なものが何だかわからずに金や時間を無駄にしていく。僕は32歳の若さで人生で一番大切なものが何か気づけたわけだから、これ以上の幸せはないのではないか。