2010-01-01から1年間の記事一覧

7代目パン屋のジャルカミレの法則

今年の10月1日から父の後を継いでパン屋の店長となった。父から店の名前を変えるか?と聞かれたので、今風の「エトワール」という名前にした。父の代までは「星村パン屋」という古臭い名前だったので、あえて「星」をフランス語訳にしてみたのだ。すると、狙…

小心者マニア

男を選ぶなら小心者がいい。 小心者のあのオドオドと周りを伺うような卑屈なしぐさ。小心者がかもし出す閉鎖的な空気。小心者が社交的な人の足を一生懸命引っ張って自分の居心地のいい空間を作り出そうとする涙ぐましいまでの努力。 私はそれらの小心者特有…

マコトとクーのパー

海にはどんな願い事も叶えてくれるワズディンという神様がいる。西武と巨人に在籍したあのジョン・ワズディンとは違う。ワズディンは気まぐれなことで有名で、何年も現れないこともあれば、毎日のように泳ぎ回りその姿を目撃されることもある。願い事がある…

鉄棒伝説

こないだ私が友達と3人でお茶していると、彼氏のトホホ話を自慢しようと言うことになった。潮美の彼氏はトイレの芳香剤をコレクションしていて、瑞枝の彼氏はパソコンのマウスをかじる癖があるという。 そして私の番が来た。何を話そうかと考え、彼氏である…

鼻くそ、無料でほじり放題だってよ

「ただいま! 行ってきます!」 「啓吾! 宿題やったの?」 中学2年生の勝山啓吾はカバンを置くなり外へと飛び出した。母親がわめいているのが聞こえるが、そんなことは知ったこっちゃない。今日は駅前に鼻くそほじり放題のショップが来ているからだ。 ショ…

睡眠で脳とけちゃう

歩く百科事典と呼ばれた岸原は、知識を詰め込むのが趣味で、寝る間を惜しんではあらゆる分野の知識を吸収した。そのジャンルは科学・文学・歴史・エンタメ・スポーツ・哲学・料理などなど多岐に渡る。テレビのワイドショーからコメントを求められることも多…

西暦からの自由

西暦と俺の対決。それが庄田優斗の人生の永遠のテーマだった。 今年でおそらく40代半ばになる庄田は15年ほど前から日付がわからない暮らしをしている。庄田の両親は有名な資産家で、息子が18歳くらいの頃から自由に金を使うことができるようにしていた。庄田…

ブックオフ中毒患者

「まーた並んでるよ。この行列なんとかなんないのかね」 通行人同士の会話が綿貫敏郎の耳に入る。綿貫はその行列の前から3番目にいた。振り返ると、約200m先のコーナーを曲がってさらにその先まで行列は伸びている。開店の10時まであと2時間もあるのに、こ…

タバコバチ

地球上にはいまだ人間に発見されていない新種の植物や生物が何億もあるという。だがしかし、2010年の暮れに福島県で見つかったタバコバチほどの大事件はないだろう。 タバコバチが初めて観測されたのは2010年10月のことだった。みかん農園を持つ農家の人が一…

オートマチック・ホリデー・ジェネレーション

近頃の若者たちは平日を平日と思わない傾向にあるという。メディアは彼らのことをオートマチック・ホリデー・ジェネレーションと評する。略してオホジェ。なんとも間抜けな名前だが、この世代は明らかに日本を変えようとしていた。 オホジェは毎日昼過ぎに目…

ザ・風景描写

風景描写の鬼と言われる観音寺勘蔵がミニバスツアーを行うと聞き、元原智弘はすぐにエントリーした。観音寺は智弘にとって神のような存在だった。智弘は小学生の頃に観音寺の書いた小説の中の風景描写を読み衝撃を受け、風景描写家になることを決めた。風景…

売れない魚

ひとり暮らしをしていると、隣にどんな人間が住んでいるのか気になるものだ。粕谷美鈴は37歳になるが恋人は15年間おらず、毎日会社が終わると早々に帰宅した。美鈴の最近のお愉しみは隣に引っ越してきた若い男とすれ違うことだった。彼はフリーランスで働い…

徒競走あらしの三蔵おじさん

その年、西区の中学校では、徒競走あらしを防ぐための防護ネットが張り巡らされていた。徒競走の時にはものものしい警備となり、民間の警備会社からも警備員が派遣されてきた。それまで楽しそうにしていた父兄たちも、心なしか徒競走が近づくと緊張している…

淡路島のチャラ

吉永よし子が淡路島のチャラと呼ばれるようになったのは、CHARAがデビューした2年後の1993年のことだった。よし子はあの時のことを今でも覚えている。高校のクラスメイトが、それまで全然目立たない存在だったよし子に向かって「吉永、あんたCHARAに似とるよ…

合コンで会った女の子

ふだん合コンなんかに出慣れてないものだから、思わず自分の本当の職業を言ってしまった。初対面の人間には自営業と言って、ぼかすようにしているのに。 「え? 探偵なんですか? その若さで?」 当然のごとく、合コンに出席した女子たちは盛り上がる。当た…

あるミルクについての真相

「どいつもこいつも退屈なミルクばっかりだ!」 ミルク評論家の谷口がテーブルを殴って立ち上がった。 「すみません、谷口さん。こちらのもう1品もご賞味ください」 商品開発部の森本が自信満々の顔で谷口にすすめたミルクはこれまでのものとは少し違うもの…

とにかく豚肉が足りない

カズ、ハル、ヨットの3人はいつもファミレスで集まってはダベっている。まるでリアル「THE3名様」的な関係だった。この3人の間では、いつも「彼女がほしい」「趣味を見つけたい」「外国旅行がしたい」という話になるのだが、最後はいつも「時間が足りなくて…

少なからず、チコ。

初めてチコに会ったのは、僕が大人になって2日目のことだった。チコはこれまで感じたことのないようないい匂いがして、僕は野に咲く花じゃないかと思ったくらいだった。チコが必ず通る道が1ヵ所あり、僕は一日中そこでチコのことを待ち続けた。 だいたい、僕…

空一面の同級生

「今回は大漁だったな」 「ああ」 「嫁に会うのが楽しみだな」 「俺は娘に会うのが楽しみだ。今日は天気がええから、どこかへドライブでも連れてってやろうかなって…うわっ、何だあれ!」 漁師である伊作と森蔵の目の先にある空には、大きな女の子の顔が浮い…

お弁当屋さんのブルース

1995年5月、若者からの絶大的な人気を誇っていたブルースパンクバンド、タイガータイフーンが突如解散を発表した。タイガータイフーンは最新アルバムの全世界リリースも決定し、まさにこれからという矢先だったから、解散の理由を人々は知りたがった。解散後…

空想の先輩

「お疲れさまです! はかどってますか?」伊織が高校のカバンを道路にどさっと置き、制服のスカートをたたんで虹野の隣りにぴょこんと座る。 「うん、まあまあかな」虹野が伊織のほうに笑顔を向ける。伊織は虹野のこの爽やかな笑顔が大好きだった。こんな笑…

1000の言い訳とマリンスライム

ドラゴンクエスト、NANA、タバコ、お酒、バンド活動、イベントサークル、ミニ四駆、Jリーグ、その他あれこれ、その他あれこれ。私はこれまで多くの誘惑の手から自分を守ってきました。この世は誤解と曲解で作られていますから、他人がいいと思うものを自分で…

膝林負けるとクの6乗

今だから言えるが、中学の頃に奇妙な遊びをしたことがある。ジャンケンで負けた奴がみんなの決めた名前に改名しなくてはならないという、単純明快でありながら至極危険なものだった。最初は小西真彦というサッカー部の奴が負けた。俺たちは小西の新しい名前…

むしゃくしゃしてる人、集まれ!

焼肉、パチンコ、カラオケ、漫画喫茶、マッサージなど、あらゆるビジネスで大成功を収めた時代の寵児・松田邦弘が新たな商売を始めたと聞き、世間は注目した。松田がビジネス雑誌に答えていたインタビューの内容によると、松田はある日ニュースを見ていて、…

水道からミルク出た

世界中の水道に異変が起こったのは2012年10月5日のことだった。そこから出てくるはずの透明な水が、全て乳白色になって出てきたのだ。各国の政府は最初、テロの可能性を考え、国民たちに決して飲まないように訴えた。しかし、水を飲まないまま人間が生きてい…

ハエ大好き!

きっかけは紫織里が恋人の翔也が読んでいたファッション雑誌を覗き込んだことだった。そこには今、ペットとしてハエを飼うことが流行っていると載っていた。 「へえー、最近ハエが熱いんだー」 「そうらしいぜ。芸能人とかもよく飼ってるってテレビで言って…

よう子の指摘

人間は食べないと生きていけない。たとえそれがどんなえらい人間であったとしてもだ。食べることが何よりも好きな私は、ふとした気まぐれで自分の持っている小説を読み返し、食べるシーンがあるものとないものを分けてみようと思い立った。そして3ヵ月かけて…

くだらなくないファー

映画『悪人』はまだ観ていないが、小説は読んだ。あの話を読むと、私は5年ほど前に某SNSサイトで知り合った、ある変わった男のことを思い出す。 その人とは音楽や映画の趣味がぴたりと一致しており、半年ほどメールやチャットを続ける関係となった。毎晩の…

レモンイレムン 妙な気分

大分県に佐古さんの好きそうなコンビニがあるとの通報を受けたので行ってきた。 場所はJR日豊本線の宇佐駅から車で3時間ほど走った山の中。周りに何もない場所に忽然と表れたコンビニの名前は「レモンイレムン」と言う。おそらくセブンイレブンをパクったも…

私のあたたたた

「あーたたたたた。あたー!」 これが私の癒しの呪文。私こと金城奈央子は、小さい頃にある拳法漫画を見て、この掛け声の虜となった。漫画のタイトルは忘れてしまったが、筋肉が肥大しすぎた主人公の服が破れるやつだ。私は通勤時や会議の途中など、イライラ…