オートマチック・ホリデー・ジェネレーション

 近頃の若者たちは平日を平日と思わない傾向にあるという。メディアは彼らのことをオートマチック・ホリデー・ジェネレーションと評する。略してオホジェ。なんとも間抜けな名前だが、この世代は明らかに日本を変えようとしていた。
 オホジェは毎日昼過ぎに目を覚まし、繁華街に行ってブラブラする。そして気が向くと買い物をする。夜は夜中まで遊んで終電を逃がす。これをひたすら繰り返す毎日。
 彼らは働きたいときに働く。仕事の求人はいくらでもある。少子化が圧倒的なスピードで進んだため、人手が慢性的に不足しているからだ。
 これまでは土日というものが特別な響きを持っていた。金曜の夜というと、身体が浮き上がる気がした。しかし、今は誰も土日と聞いたところで、他の曜日と何も変わらない印象しか与えない。もともと「火!」とか「金!」とかに比べて、インパクトがない字面だったので、存在感がなくなるのは時間の問題だった。
オホジェの連中は、いまだに平日を平日として過ごしている旧世代を嫌悪し、ありったけの軽蔑を込めて、平ちゃんと呼ぶようになった。平日の平ちゃん。そう呼ばれて若者に対してキレて殴りかかっている中年男性がよく居酒屋などで目撃されている。彼らは平ちゃんと呼ばれることを嫌がり、平日存置論者と呼ぶように主張していた。
 ある日テレビの深夜番組で、平日存置論者(ここでは平ちゃんと呼ぶことにする)とオホジェによる討論会が行われたことがあった。
 その内容は以下の通りだった。

平ちゃん「月曜から金曜まで苦しい思いをして、初めて土日のありがたさがわかるんだ。おまえらみたいに毎日ヘラヘラ過ごしていたらメリハリがないだろう」
オホジェ「なあ平ちゃん、それは旧世代の発想だよ」
平ちゃん「平ちゃんと呼ぶな! 平日存置論者と呼べ!」
オホジェ「どっちでもいいよ。いいか、我々には進んで苦労をしようという発想がない。毎日がホリデーでいいじゃないか」
平ちゃん「かわいそうな奴等だ。月曜日の朝のあの苦しさをおまえらは知らないんだな。金曜日の夜のあのワクワク感をおまえらは知らないんだな」
ホホジェ「どちらも我々には必要がない。苦しさなんてあえて感じる必要がないし、ワクワク感だったら毎日感じている」

 このようにどこまで行っても平行線だった。そして月日が流れ、20年が経った。20年前に平ちゃんを呼ばれていた連中のほとんどはリタイアし、オホジェが日本社会の中枢を担うようになった。オホジェは自分のことをオホジェとは呼ばない。それはあくまで平ちゃんたちが彼らの生き様に怯えてつけた名前なのだ。やがて平ちゃんという呼び方は死語となり、オホジェという呼び方も死語となった。こうして、日本人にとって平日か週末かという分別感覚は完全に失われたものとなった。