小心者マニア

 男を選ぶなら小心者がいい。
 小心者のあのオドオドと周りを伺うような卑屈なしぐさ。小心者がかもし出す閉鎖的な空気。小心者が社交的な人の足を一生懸命引っ張って自分の居心地のいい空間を作り出そうとする涙ぐましいまでの努力。
 私はそれらの小心者特有の行動を見ると、男を抱きしめてあげたくなる。反対に社交的で外交的で明るいと言われる男ほど信用のならないものはない。奴らは誰にでも愛想よく振る舞い、聞こえのよいサービストークをさんざんしておきながら肝心な局面で都合が悪いだの何だの言って逃げ出す。その芯には誠実さの欠片もないにかかわらず、奴らは上のものから好かれ、昇進していく。私はむしろ自分の中にそういった面を持っているからこそ、奴らの嘘が手に取るようにわかる。そして決して騙されてなるものかと思う。
 だが残念なことに私のような派手めな外見をしていると、小心者の男は寄ってこない。小心者たちは私が通り過ぎた後に、後ろ姿をジロジロと舐めるように見つめる。小心者たちは私が見られていることに気づかないと思っているのだろうが、私は気づいている。彼らのその臆病さがいじらしくなる。
 私は一度、小心者限定のお見合いパーティというものに行ったことがある。そこには私好みの小心者たちがウヨウヨいて私は興奮した。私は餌に飛びつくオオワシのように彼らにアプローチをしまくった。しかし小心者たちは私の外見にしり込みしたのか目を合わせようともしなかった。ついには、私がしびれを切らせて、
「電話番号くらい教えなさいよ、コラ!」と怒鳴ったら、その半径5mにいた小心者たちは蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。中には失禁している者もいた。泣いている者もいた。私はそのパーティで、ひとりの電話番号もメールアドレスもゲットすることができなかった。参加費の5000円はドブに捨てるかたちとなったわけだ。
 パーティでの失敗後、私は初対面の小心者たちと知り合うことは至難の業だと気づいた。彼らはただでさえガードが固く、自分の中に閉じこもるのが好きなため、初対面の相手にはますます警戒心を強める。しかも私のような美人に属する外見の女性ならなおさらだ。
 私は身近なところでパートナーを見つける戦法に切り替える。社内にはそれらしい男が一人いる。長島君という47歳の独身男だ。長島君は人の目を見て話すことができず、声も小さくボソボソしている。よく「おまえ何言ってるか聞き取れないんだよ」と20歳も年下の上司から怒鳴られているのを見る。私は長島君を見るたびに胸がキュンとする。こんな近くに運命の人がいたなんて。私は長島君に個人メールを送る。
「突然失礼します。秘書課の斉藤です。仕事のことで相談があるので、明日19時に会社の前のドトールに来てください」
 しかし長島君からの返事は来なかった。小心者を落とすのは難しい。それが私の恋心をさらに刺激する。