1000の言い訳とマリンスライム

 ドラゴンクエストNANA、タバコ、お酒、バンド活動、イベントサークル、ミニ四駆Jリーグ、その他あれこれ、その他あれこれ。私はこれまで多くの誘惑の手から自分を守ってきました。この世は誤解と曲解で作られていますから、他人がいいと思うものを自分でいいと思うとは限りません。私は何度も何度も誘惑に屈しそうになったときもありました。たとえば、クラスの全員がドラゴンクエストの経験者で私だけがキャラクターの名前を何も知らないと知った時のあの疎外感。クラスメイトは私を嘲笑し、そのボケーとした顔はマリンスライムみたいだと言われました。もちろんマリンスライムがどういうものだかわかりません。でも、そのとき私は気付いたのです。世界と私の関係はマリンスライムと私と関係のようなものだと言うことを。つまり、みんなにとっては重要でチャーミングに見えるものでも、私にとってはそれが何であるかすらわからないのです。
 私は世界に対して極力無関心を貫こうとしました。しかし、世界はしぶとく、あの手この手のやり方で私を世界の仲間にしようとします。Jリーグ面白いよー、とか。クレヨンしんちゃん面白いよー、とか。ブラックマヨネーズ面白いよー、とか。私は徹底してこの申し出を拒絶し続けましたが、うるせえな!とちゃぶ台をひっくり返すほどの度胸は持ち合わせておりませんから。華麗なる言い訳をいくつも用意しておかなくてはなりませんでした。その場を丸く収めるような。怒りに震える相手から殴られないような。私のこれまでしてきた言い訳は、1000をゆうに超えております。もしもギネスブックに言い訳部門というものがあるなら、文句なしに私が一番に輝くことでしょう。
 しかしまたこれには少しばかり問題がありました。言い訳が異常に上達してしまったおかげで、もはや何もできない身体になってしまったのです。朝起きて、これをやろう!と思っても、非の打ち所のない言い訳を自分にしてしまい自分はすぐに納得してしまいます。その言い訳のスキルたるや、自分が惚れ惚れしてしまうほどなのですが、反対にこのスキルを持っている自分が怖くなってしまいます。いいですか、言い訳とは諸刃の剣でございます。言い訳とは毒の入ったチョコレートのように甘くて危険なものであります。この世に神様がいるならば、私からこの言い訳のスキルを奪い去って、昔の無力だった頃の小学3年生に戻してほしいと強く思うのであります。もうマリンスライムでいるのは嫌なのです。1000の言い訳も全て忘れたいのであります。