サンロードに棲むあいつ

 吉祥寺駅を降りると見える伝統ある商店街、その名もサンロード。皆様はここに、ある怪物が出現するのをご存知だろうか。怪物の容姿はとても醜悪だ。顔はカメムシ似。痩せこけているのに、下腹がプクッと出ており、誰もが目をそむけてしまう。この怪物の名前を世間はジェイドと呼んでいる。ジェイドは朝から晩までこのサンロードを徘徊し、人々が手にする食べ物を横取りして暮らしている。
 ジェイドの好物はマクドナルド全般だ。サンロード入ってすぐ左側にあるマクドナルドで何か買ってみるといい。すぐにBボーイ風のファッションに身を包んだジェイドが駆け寄ってくるはずだ。
 私はある日、ジェイドのことを取材しようとして、手にフィレオフィッシュを持ってマクドナルドの前に立っていた。すると、すぐにジェイドが現われた。
 私は聞いた。「君のこと知っているよ。ジェイドだろ。有名人だ」
「そうだね。僕は吉祥寺で一番有名だ」
「取材してもいいかい」
マクドナルド1ヵ月分でどうかな」
「いいけど。それはお金にしていくらだね」
「6億円だ」
「そんな! そんなの無理だよ。うちの雑誌は毎月予算がカツカツなのに、それはできない」
「じゃあ断る」
「ちょっと待て、ジェイド。君は本当にそんな大量のマクドナルトを毎日食べているのか」
「ああ。ざっと6億円分くらいはね」
「わかった。じゃあ、上のものに聞いてみる」
 私はすぐに上司の勝山に電話をした。勝山は6億円という数字を出したら、即座に断った。当たり前だ。6億円があれば、ジョニー・デップジョニー・ロットンジョニー黒木を呼んでもお釣りが来るだろう。
「ごめん。断られちゃったよ」私は肩を落とした。
「じゃあ、僕は取材に応じないだけだ。またね」
 フィレオフィッシュを奪って立ち去ろうとするジェイドに、私はひとつだけ聞きたいことがあった。
「ちょっと待ってくれ。君はどうして6億円分も食べて、そんなに痩せているんだい」
胃下垂だからさ」
 私はその言葉に納得させられた。実は、この私こそが痩せの大食いであり、胃下垂だった時代があるからだ。私はジェイドに大きく手を振った。またね! またね!