国から私への贈り物

「パパが今まで一番うれしかったのって、誰からのプレゼント?」
「決まってるじゃないか。国からのプレゼントだよ」
―――――――――――――――――『国が好き』サムソン・シェパード


 国が私にくれたもの。それは私の名前。私の両親は優柔不断で、私が生まれた時に名前を決められなかったの。そこで両親は、国に名前をつけてもらうように依頼したの。厚労省にはそういう名前を名づける機関があって、私のことを美澄と名づけてくれた。名前の由来は知らないわ。きっとコンピュータで検索して一番最初に出てきたんでしょうけど、私はこの名前がすごく気に入っているの。美澄、美澄、美澄。なんていい名前なんでしょう。みすみー、みすみーって、まるで小川のせせらぎをアメンボーが滑っているようじゃない? ありがとう、国! 私の国!
 まだまだあるわ。国が私にくれたもの。それは私が住むこの土地よ。本当は父親が30年前に買ったものだけど、その権利を私に保証してくれているのは国なの。国がいいよって言わないと、私はこの町にいられないの。怖いでしょう? 私が住む五反田は世界一の町よ。美味しいラーメン屋だって2、3軒あるのよ。ありがとう、国! 私の国!
 もっと聞きたいでしょ。国が私にくれたもの。それは人権! ちょっと難しい言葉だけどね、去年習って勉強したから知識は確かよ。いい? 私は国によって、生きることを保証されているの。国はなんて懐が広くて、親切な存在なのかしら。国がいるおかげで私があるの。そう考えてたら涙が出てきちゃった…。ありがとう、国! 私の国!
 まだあるわよ。もう少し聞いてね。国が私にくれたもの。それはお金。私の親は一生懸命働いたお金を国に差し出しているんだけど、私の町の図書館や区役所は国が作ってくれたのよ。信じられるかしら。この気前のよさ! 私も高校を卒業したら、たくさん働いて国のためにお金を差し出すの。そしたらきっと嬉しい使い道をたくさん考えてくれるに違いないわ。ありがとう、国! 私の国!
 最後に一番大事なのがこれよ。国が私にくれたもの。それは常識よ。英語で言うなら、コモン…なんとかよ。ごめんね忘れちゃった。まあそれは置いといて、国が私に生きる指針のようなものを与えてくれたお陰で、私は道を誤らなくてすむの。テレビを見ていて毎日たくさんの誘惑に負けそうになるけど、私には常識がある。この常識を胸に私は気持ちよく、すくすくと育つことを誓います! 五反田第3高校2年A組、春山美澄でした。ありがとう、国! 私の国!