おみこしドライバー翔(カケル)

 翔は先週合コンで出会ったデパガの美恵ちゃんをドライブに誘った。美恵ちゃんはドライブが好きだというので、最初のデートに持ってくるのが得策だと思ったからだ。待ち合わせは志木駅だった。美恵ちゃんは相当気合いが入っているのか、手作り弁当を持ってきたとのことだった。
 翔は美恵ちゃんと手をつなぎ、愛車の止まっている場所に行った。近所の神社だった。美恵ちゃんは不思議そうな顔をして言った。
「ここ、駐車場なの? 神社の中に駐車場があるって珍しいね」
「違うよ。もっと奥だ。こっち来てごらん」
 翔に導かれて、神社の祠に辿り着いた。そして翔が窓を開け、忍び込むように促す。美恵ちゃんは嫌々ながらも支持に従い、2人は祠の中に身を入れた。
「これが俺の愛車だよ」翔が得意げに説明をした。「どうだい。このボディのフォルム。まるでカルボナーラのようだろ?」
「え? 愛車って。これ、おみこしじゃない」美恵ちゃんがストレートに疑問を口にした。
「そうだよ。俺の愛車だよ。名前はもんじゅだ」
「どうやって運転するの?」
「決まってるだろ。君と俺の2人で操縦して、深夜の川越街道をぶっ飛ばすんだ」
「ええー、そんな。私、普通の車だと思ってたのに」
「普通の車だよ! 道路を走ってる鉄くずはあんなの車じゃない。エンジンがないと動かないほうがどうかしてるんだ。しかも、この車は1人じゃ動かせないんだ。そのほうが、2人で一緒に走っているっていう実感があるだろ」
「そうなんだ。わかったわ」美恵ちゃんは翔の熱い説明に押され、しぶしぶ納得した。「でもスカートはいてこないでよかった…」
「大丈夫、俺の教え方うまいから」
 こうして2人は祠からおみこしを発進させ、深夜の川越街道を時速6キロで走った。走りながら弁当を食べるのはさすがに無理だったので、一度公園に停車して、2人で敷物を広げて食べた。美恵ちゃんの作ってくれた弁当の中身はロールキャベツで、ずいぶん冷めてしまっていた。