自信はコンビニで買おう

 オトコ香る、コバラピタリガム、眠気スッキリガムなどのヒット商品で知られるクラシエフーズは24日、コンビニ限定で「自信」を販売することを発表した。価格は610円。この値段が果たして妥当なのか、そうでないのかは不明だが、発売初日には全国のコンビニに長蛇の行列ができた。並んでいるのは性別も年齢も関係なかった。現代の日本人は皆、自信を心から欲していた。
 高校2年生の長谷川大成は行列に並んだうちの1人だった。大成は13歳の頃に親に期待されていた私立中学に落ちて以来、自信を失くしてしまっていた。そこで小学校以来となる自信を手に入れたことで、大成は半信半疑ながらも舞い上がっていた。
 すると早速効果は現われた。バイト先の喫茶店に行った時に、お気に入りの敦子から「長谷川くん、いつもと雰囲気違うね」と褒められたのだ。大成はそれを聞いて、610円は安いと思い、バイト代を全部自信に使う決心をした。
 しかし、自信は一度買うと寝るまでしか持たなかった。翌日の朝には、またも自信のない自分がモヤモヤと現われ、大成は自分の弱さを呪った。そして再び自信を買いにコンビニに走った。
 こうしてコンビニで買った自信なのか、もともとその人が持っていた自信かは誰もわからぬままに、街には自信満々の人々で溢れかえった。誰もが皆、堂々とした口調と顔つきで自分のことを語り、堂々とした足取りで胸を張って闊歩した。諸外国は「日本人が変わった」と驚き、サッカー選手のストライカーが次々と輸出されるようになった。
 しかし、あくまでこの自信はコンビニで買ったものでしかない。堂々とした自分を保っていたい人々は自信を買い続けなければいけなかった。
 そこで、そんな自信中毒となった人々が恐れていた事態が起こった。クラシエフーズが原材料切れによる生産の一時停止を発表したのだ。同社が発表したところによると、自信,は原材料にセロリとウズラの卵を大量に使うのだが、これらがあまりの大ヒットにより日本はおろか海外からも品薄になってしまったのだ。
 消費者たちはなんとか生産を再開するようにデモを起こした。だが、再開の目処はまるで立たなくなった。実は、いくつかの国ではセロリとウズラはまだ食べられていたのだが、日本人のよくわからない薬のために差し出したくないといって断ったのだそうだ。
 現に、この商品は日本でしかヒットしなかった。海外の人々は、自信なんぞは人から与えられるものではなく、自分の中から自然と湧き上がってくるものだという至極まっとうな考えを持っていたのだ。やがてセロリとウズラの乱獲により、両者を絶滅寸前に追い込んでいることに対しての批判が集中し、クラシエフーズは謝罪。事実上、自信の生産は白紙状態になった。
 これにより、多くの日本人が鬱状態に陥り、海外で活躍していたスポーツ選手たちも次々と成績を落とし解雇されていった。
 自信がコンビニで売られていた時代は、2010年の5月から12月までという短い期間だが、この時期をのちに人々は「日本がもっとも輝いていた時代」として懐かしんだ。たかが610円の商品の力を借りただけなのだが、国の圧力によって歴史の教科書からはこの事実は削除された。クラシエフーズも社名の変更を余儀なくされ、当時のことを知る社員は全員リストラされた。100年後に生きる子供たちはまさか自信がコンビニで売られていたという事実は知る由もなく、2010年を日本の黄金期としてうらやんでいるという。