なんか違う

 10年前のあの日、俺が面接で発した言葉はひとつだけだった。
「なんか違う」

「では、吉永さん。当社を希望した動機を教えてください」
「なんか違う」
「は? 何が違うんでしょうか。じゃあ、好きな言葉を教えてください」
「なんか違う」
「あ、なんか違うって言葉が好きなんですね。では、当社でやってみたい仕事を言ってください」
「なんか違う」

 その「なんか違う」攻撃が受けたのか、俺はそのM建設に入社が決まった。きっと、現状に満足せずに、果敢に変革を求める向上心のある若者だと思われたに違いない。
 俺はその後、『「なんか違う」と言い続けてれば会社に受かる!』という本を出してベストセラーになった。本が売れたお陰で、面接で「なんか違う」を言い続ける人間が増えたと言われている。しかし、実際に俺以外に、「なんか違う」と言い続けて合格したという人間には会ったことがない。
 俺は現在、まだM建設に在籍し、人事を担当している。今日も俺があの本を書いた人間と知らずに、「なんか違う」攻撃をする若者が2人いたが、2人とも落とした。