小学生のフジロック
クラスで一番快活な荒川君が「大ニュース! 大ニュース!」と言って教室に駆け込んできた。他の男子が興味津々な顔つきで「何だよ、何だよ」と言いながら、一瞬で荒川君のもとに群がる。
「まったく…。男子っていつも何であんなにうるさいんだろうね」
私がつぶやき、それを聞いたキミちゃんが「そうだね」と笑う。
「もったいつけるなよー」
「早く言えよー」
男子たちに急かされて、荒川君は一呼吸置いたあとに言った。
「隣りのクラスの奴ら、全員フジロック行くんだって!」
「えー?」
男子たちが悲鳴をあげる。
「マジかよ? なんでそんな金があるんだよ!?」
「フジロックのチケット、DSより高いんだろー?」
「マサヒコの家はそんな金ないはずだぜー」
「つーか、小学生ってフジロック入れるのー?」
男子たちから噴出する疑問に対し、荒川君は待ってましたとばかりにこう答えた。
「それなんだけどさ。隣りのクラスのナガハシ先生が、全員分お金出すんだって!」
これを聞いた男子はもう半狂乱状態だ。
「ずりー!」
「不公平だー!」
「ナガハシすげえー!」
「じゃあさあ」
頭のキレる押本くんが、ひとつの提案をした。
「俺たちも連れてってくれるよう、ナガハシに頼んでみない?」
「いいねー!」
「あるあるー!」
「押本やっぱ頭いい!」
しかし、次の荒川君の一言が、にわかに盛り上がる男子たちを絶望の底に叩き落した。
「俺もそう思って頼んでみたんだけどさ。他のクラスの人間は絶対に連れていかないって」
「ぎゃあああ!」
「マジ終わったー!」
「やっぱなー!」
誰もが床に転がり、のたうちまわった。これだから男子は滑稽で面白い。
「ハハハ。男子って本当にロック好きだよね。…って、キミちゃん? キミちゃん?」
キミちゃんは泣いていた。
「あ…、ごめんね。ユウコちゃん。私、本当はフジロックにすごく行ってみたくて。今の押本くんの提案を聞いた時に、私も行けるかな?って、バッドブレインズとアニコレとロイクソップ見れるかも!って、期待しちゃったんだ。でも、やっぱり普通の小学3年生には行けないよね…」
「キミちゃん…。じゃあ、行こう! フジロック行こうよ! 私ロックとか全然わからないけど、行ったらなんとかなるよ! 私こないだナルミヤの服をヤフオクで売ったら3千円ほど儲かったから、それで2人で電車に乗ろう! ね?」
「ユウコちゃん…」
そして、夏休みに入ってすぐの7月24日。私とキミちゃんは子供料金で鈍行列車に揺られて、無事に苗場に着くことができた。フジロックのチケットはさすがに高くて買えなかったが、クリスタルパレスで優しい大人の人たちに会うことができて、最高の3日間を過ごせた。しかも、私はキミちゃんの影響でロックが大好きになったのだ!
高校生になったらバイトしてお金貯めてチケット買おうね、キミちゃん!