忘れる妻

 夜、家に帰宅すると、旦那がいなかった。また、豆腐屋の主人の家に行っているに違いない。私は豆腐屋に走っていった。
「すいません、うちの旦那来てませんか?」
「ああ、いるけど。今、旦那は3人来てるぞ。おまえの旦那を勝手に連れて帰ってくれ」
 しまった。私は異常に物忘れが激しかった。そこには3人の旦那が並んでいた。メガネ、デブ、ヒゲの3人だ。どれがうちの旦那だろうか。目がよく見えないとよく言っていたからメガネか? 会社のメタボリック検診に引っかかったと言ってたからデブか? 家に髭剃りがあったからヒゲか? ええい、ままよ。私は自分の直感を頼りにヒゲに近づいた。
「あなた、帰りましょ」
 すると、デブがこう言い放った。
「ふざけんなよ」
 しまった! はずした。私は豆腐屋の前で大恥をかき、家に帰った。旦那からはこっぴどく叱られた。

 翌朝、旦那がやけに怒ってた。
「おまえ、昨日のこと許さないぞ」
「は? 何が?」
 なんでこの人は怒っているのだろう。
 すると、旦那が笑い出した。
「ははは、おまえは憎めない奴だよ。面白いなあ」
 私もそれを見ておかしくなって一緒に笑った。