20世紀日本人

 1998年8月、ニューヨーク。キャサリンと僕は2人でハドソン川のほとりに腰かけながら、スターバックスのコーヒーを飲んでいた。
「ねえ、キャサリン。あと2年で20世紀が終わるね」
「くっだらない。そんな話して何が面白いのよ、リチャード。世界中で何億人が同じ話をしてると思ってるのよ」
「それもそうだね」相変わらずキャサリンの言うことは鋭く、強く、僕の曖昧な考え方を質してくれる。「そんなことも気がつかない僕は、やっぱりちょっとバカだ」
「ねえ、そんな退屈な話はいいからさ。日本人の真似してみない?」
「日本人?」キャサリンの言うことはいつも唐突すぎて、僕は3歩ほどついていけない。「僕、日本のことなんて何もしらないけど」
「私だって知らないわよ。でも、少しくらいはテレビとかで観て、知識あるでしょ。やってみましょう。まずは私から」
 キャサリンは「オーガガガ、ラー!」と言って両手をグルングルンと回した。
「何それ?」
「テレビで観たことあるの。日本人って、選挙とか受験とか、何かポジティブに頑張ろうとする時、何人かで輪になってこう叫ぶのよ」
「オーガガガ、ラー?」
「そうそう」
 僕とキャサリンは腹を抱えて笑いながら、その後20分ほど、「オーガガガ、ラー?」と叫びあった。
「ははは。日本人って面白い民族だね」
「あんたはないの?」
「僕かー。じゃあこれは?」
「何なの、それは」
「スープを箸ですくおうとするんだけど、うまくいかないんだ」僕は必死でスープをかき集めようとしているジェスチャーをした。
「バカね。日本人ならスープくらい、箸で簡単につまむわよ」
「そうか。僕は日本人を甘く見ていたのかな」
「そうよ。あなた、失格よ」
 僕は、ハドソン川に沈む夕日と、空を颯爽と飛ぶカモメを見ながら、日本のことをもう少し勉強してみようと思った。