モゲリカ!

「モゲリカ?」
「そう、モゲリカ。漢字で書くと、茂下理華。変な名前だろ」
 俺と中島は、缶チューハイを飲みながら、それぞれ自分の卒業した高校の話をしていた。
「モゲリカ。モゲリカ」中島は何度もモゲリカの名前をつぶやいて、カラカラと笑った。「うえー、俺すげえ会いたい。実はさ、変な名前の女、好きなんだよね」
「じゃあ、電話してみるか」
 俺は電話を鳴らした。
「モゲリカ? 久しぶり。2組の斉藤だけど」
「やあ、斉藤くんか。元気?」
「おまえと話したいって奴がいるんだけど。電話替わるぜ」
「え、いいよ。やめて。なんで私なの」
「名前が面白いからだって」
「ごめん。私そういうの、すっごく多いんだよね。でさ、私が電話に出るとモゲリカ? モゲリカ?って大笑いしてさ。私がどんな人間だろうと知ったこっちゃないって感じ」
 モゲリカは取りつく島もなく話して、電話を終わらした。「じゃーね。そういうことだから。バーイ」
 俺は中島に向き合い、説明した。
「モゲリカ、ダメだったよ。こういうの、よくあるんだって」
「はあー。そうなのか」中島は、この世の終わりのような顔でため息をついた。
「そう気を落とすなって。他にも俺のクラスには面白い名前がいたからさ。えーっと」
「何? なんて奴?」
「コサカマユミ」
「どこかだよ。コサカとか言って、すげえありふれてるじゃねえか」
「じゃあ、カサイハルカ」
「おめえ、カサイって言ったら、葛西だろ。駅名でもあるじゃねえか」
「わかったよ。他の面白い名前、次会う時まで探しておくからさ」
「ああ。絶対だぞ。俺それまで彼女つくんねえからな」