九州男児がいいの

 僕は、某ラジオ局でしがないDJをやっているグレープ近藤と言うものだ。僕の番組「ミッドナイトカラス」は聴取率最低で、このたび打ち切りが決まった。そんな最終回の日、番組にあるハガキが届いていたので、僕は読み上げた。

 グレープさん。こんばんは。突然ですが、私は占いを100%信じる人間です。こないだも新橋の駅前にいた手相の占い師さんに占ってもらった時に、あなたは九州男児と結婚すると言われて、信じています。
 それ以来、私は仕事帰りに男の子に声をかけ、出身地を確認するようになりました。
「すいません」
「なんですか」
「あなた、九州男児ですか」
「いや、僕は埼玉の生まれですが」
 こんな感じに。
 でも、残念ながら、東京には九州男児は少ないのか、なかなか会うことができません。どうすれば会うことができるのでしょうか。
 
 そこまで読み上げて、僕は迷わず、彼女へと電話をかけた。興味深い内容のハガキには電話をかけるというシステムの番組なのだ。
「もしもし。マルマルヘブン子ちゃんですか。グレープ近藤ですが」
「はい。ヘブン子です。グレープさん、いつも楽しく聴いていますよ」
「ありがとう。ところで、東京には九州男児が少ないと書いてあるけど、僕、熊本出身だよ」
「えー? 嘘? 嘘?グレープさん。確か、東京育ちみたいなことを番組の中で言ってませんでしたか」
「ごめん、あれはね。自分が田舎者って思われるのが嫌で、東京育ちのフリをしてたんだ。リスナーのみなさん、ごめんなさい。僕、嘘ついちゃってました」
「いやだ。うれしくて涙出てきちゃった」
「僕もだよ。最終回にこんなハガキが届くなんて。ヘブン子ちゃん、これも運命だから、結婚しようか」
「はい」
 最終回、DJとリスナーのまさかの公開結婚。スタッフは予想外の展開に、それぞれ顔を見合わせて驚いていたし、最終回だからと言って、放送を聴いてくれていた友達や家族から携帯電話に着信やメールが次々と届いた。
 DJで一旗あげるなんて言って上京したのはいいが、大して成功しなかった。しかし、東京で嫁をもらってきたとなれば、親としても鼻が高いに違いない。

 しかし、マルマルヘブン子ちゃんとはその後、一度も会うことはなかった。電話番号にかけても、出てくれない。住所に手紙を出しても、返事が届かない。
 あれはただのイタズラだったのだろうか、あるいは別の占い師に、東北や関西の男と結婚するように言われたのかわからない。何にせよ、熊本に帰った今、東京は怖い土地だということで、家族の意見は一致している。