マジソン軍の箸

「昔な、『マジソン軍の箸』って映画があったんだよ」
 定食屋で2人で夕飯を食べていると、父が唐突に話しかけてきた。
「へえ、どんな映画?」
「なんかな、なんとかっていう名前の中尉と、なんとかって名前の女中さんが登場する映画なんだが、その女中さんが日本人役でな、箸の使い方を中尉に教えてやるんだ。それで、中尉の所属するマジソン軍に箸の使い方が広まっていくって話」
「へえ、わけわかんない話だけど面白そうだね。父さん、それ今日レンタルして帰ろうよ」
「いや、父さんはその映画が嫌いで嫌いで仕方がなかったんだ。だから、一緒に観るのは勘弁してくれ」
「じゃあ、なんで話したんだよ。観たくて仕方なくなっちゃったよ」
「すまん、ただの思いつきだ。あそこの窓際で食べてる女の子の箸の使い方が酷いなって思ったからさ。その映画の中での箸の使い方はものすごく美しかったんだ」
「そうか、それなら仕方ないね。僕ひとりで今度レンタルするよ」
「ああ、そうしなさい。父さん、金出してやるから」