夢は汽車

「なあなあ、おまえの夢、何?」
 何この人。このクラスになってからまだ20分も経ってないのに、いきなり授業中に話しかけてきて。しかも、その内容が夢ですって? 初めての会話なのに、人のプライベートに首つっこみすぎじゃない?
「何、黙ってるんだよ。あ、わかった…。だっせえ。おめえ、夢ねえんじゃないの。かわいい顔して、だっさいよなあ」
「ふざけないでよね! 私の夢は汽車よ!」
 は、やってしまった…、授業中なのに。これでクラスのみんなの第一印象はガタ落ちだ。
「おい、記者って新聞記者か? すげえな」
 相手はかまわず会話を続けるので、私も周りの目を気にせずに応酬した。
「記者じゃなくて汽車よ。列車のほう。ガタンゴトンね。私は時速60キロくらい出して、北海道から沖縄まで走りたいの。私自身が汽車になりたいのよ」
 授業は完全に中断し、みんな私たちの会話に注目している。
「ちょっと待て。現実味に欠けないか、それ? 時速60キロが出したかったら車でいいだろ。しかも、北海道から沖縄まで行ける汽車はねえぞ」
「夢を壊すんじゃないよ! 川嶋が汽車になりたいって言ってんだからいいだろ。この不良少年! うんこ! すっとこどっこい!」
「せ、先生」
 先生が私の代わりにバーンと言ってくれた。私が汽車になったら、先生を一番に乗せてあげようと思った。