噂のかかと

 私は啓次郎の目を見て、話し始めた。
「かかとの噂、流したでしょ」
「お、俺じゃないよ」
「あなたにしか話してないもの。それ以来、私のかかとをジロジロ見る人が増えたのよ」
「だから俺じゃないんだって」
「確かに面白いとは思うわ。かかとから水菜が生えてきている女なんて、人類の歴史の中で一人もいなかったと思うの。でも仕方ないじゃない。切っても切っても生えてくるの、水菜が。靴下もハイヒールも突き抜けて生えてくるのよ。あなたがみんなに言ったんでしょ。正直に言ったら怒らないから」
「俺が言った」
「ほら! 私を笑い者にしたいのね」
「そうじゃない。水菜が生えている女なんて、これ以上ないほど魅力的だってことを伝えたかったんだ。隠すんじゃない。それがおまえの魅力なんだ。だって、働かなくてもいいんだぜ、水菜を売ればいいんだから。何なら俺が売ってやってもいい」
「あなた、そんなに頭からジャラジャラ金属をたらしながら、意外と私のこと考えてくれてたのね。けっこう泣けたわ」
「結婚しよう」
「え、いいの? 私、水菜よ」
「おまえじゃなくちゃダメなんだ」
「あなた!」 
「利江!」
「水菜って呼んで!」
「水菜!」
「あなた!」
「水菜!」