81年目のプロポーズ

「100歳になった時に、お互いまだ独りだったら結婚しようね」

 曜子に告白したら、そう言われた。あれは19歳の頃だ。
 それ以来、僕はひたすら健康に気遣って生きてきた。タバコは吸わない。お酒は適度に。よく笑い、よく話し、よく動く。周りの友達が次々とこの世に別れを告げる中で、僕はひとり健康であり続けた。
 そして、100歳になった日の朝、僕の携帯電話にメールが届いていた。曜子からだった。

「こんにちは。81年ぶりだけど、覚えてるかな? 曜子です。ネットカフェ『獄門島』のバイトで一緒だったよね。私も先月、無事に100歳になることができました。銀治くんの体調がよかったら、今晩会えないかな? 夜8時に渋谷HMVのパンク/オルタナティブのコーナーの前で待ってます。☆曜子☆」

 僕は80年前によく着ていた水色のギンガムチェックのシャツを着て、曜子に会いに行った。
 曜子の背丈は19歳の頃と比べるとだいぶ縮んでいたが、顔の面影は変わっていなかった。
「人間ってさ。お互いに年齢を重ねたもの同士だと、全然変わってないって思うじゃない? あれって、100歳になってもそうなんだね」曜子はそう言って笑った。
 僕らはそれ以来、デートを重ね、2ヵ月後に結婚した。お互い初婚だった。

 さすがに子供を作るのには難しい年齢に突入していたから、僕らは相談して、養子をもらうことにした。マレーシア生まれの子で、天使のような顔をしていた。名前は、僕らが100歳の頃にやってきた子だから、「百太郎」と名づけた。
 百太郎はすくすくと大きくなり、やがて小学校へと入学。僕らは授業参観にも出かけ、他の父兄の方々からの拍手を浴びた。その模様はテレビのドキュメンタリーでも放映された。他の子たちの親が、自分たちの祖父母よりも年上だと言って驚いていた。
 百太郎は自分の親が106歳なので、他の子の親たちが若すぎると思っているらしく、「○○ちゃんの親はまだまだ子供だ」などと生意気なことを言っている。
 いつの日だったか、百太郎に「何歳で結婚したい?」と聞いたら、「105歳くらいかな?」と言っていた。長生きするのはいいことだが、彼は僕と同じように、100年も続く独身時代を謳歌するつもりなのだろうか。
 僕と曜子の健康状態は上々だ。この調子だと、お互いあと3年は生きる自信があるが、百太郎の小学校の卒業式くらいまでは頑張って生きたいと思っている。


 そこまで自伝を書いたところで、曜子がコーヒーを淹れて持ってきた。
「あなた、あまり根をつめて書いていると、お体に障りますよ」
「ああ。そうだな。今日はこの辺でやめにするか」
「ところで、さ来週の土曜にブラック・アイド・ピーズがライブをやるんだけど、行かない?」
「もちろん知ってるよ。ジャーン」
「あれ? もうチケット買ってたの?」
「当たり前だろ。その次の月のランシドの公演も買ってあるよ。百太郎とおまえと僕の分を3枚ね」
「あなた、大好き!」
「ははは。抱きつくなって。腰に響くってば」