ネクスト骨レーション

 今から5年前、娘のハルカの幼稚園ではパンクが大流行していた。理由はお笑い芸人のミスフィッツ小島が出てきたからだ。小島はガイコツの絵が描かれたスカルスーツに身を包み、「そんなのアナーキー」だとか、「はい、ノーフューチャー!」だとかを叫ぶ。大人にとっては全く面白くないのだが、その人並外れた瞬発力のテンションが子供には面白いらしく、キャッキャキャッキャと笑っていた。当時はどこの家庭でも、子供たちが意味もわからずに「アナーキー」とか「ノーフューチャー」と叫んでいたので、PTAがミスフィッツ小島宛てに抗議声明文を送ったほどだ。
 ハルカも例にもれず、友達と子供用スカルスーツを着て遊んでいた。不安に思う親もいただろうが、お笑い芸人の人気なんて一過性のものでしかない。私はミスフィッツ小島のブームが落ち着くまで静観するようにしていた。

 しかし、全国のお母さんの思いとは裏腹に、ミスフィッツ小島の人気は長続きした。半年そこらで消えると思っていたのに、なんと5年経った今でもテレビで「そんなのアナーキー」と叫んでいるし、小学3年生になったそのたびにハルカは笑っている。前に一度、「飽きないの?」と聞いたら、「全然。私たちの世代のヒーローだもん」と答えていた。
 そんなミスフィッツ小島の及ぼした影響は様々なところで表れた。あれは、うちの旦那とNHKルワンダの虐殺記念館の番組を観ていた時のことだ。ガイコツが積み上げられた無造作に積み上げられた映像を観た時に、私と旦那が「うわっ」と目を逸らしたら、ハルカは「そんなのアナーキー」と叫んで笑っていた。旦那は眉をひそめて神妙な表情を浮かべていた。私もなんと言っていいかわからなかった。しかし、もう彼女たちにはガイコツが怖いというイメージが希薄なのだろう。怖がらないものは仕方がない。 
 そしてもうひとつ。確実にいい影響もあった。ハルカを筆頭とする子供たちはミスフィッツ小島のスカルスーツのお陰で、骨が大好きだった。とにかく魚料理を出すと、骨しか食べない。スペアリブの骨でも砕いてくれとせがむし、バリバリ、バリバリと音を立てて食べる姿は、同じ人間とは思えない。私たちが、ゆとり世代などと呼ばれてヘラヘラとひ弱路線まっしぐらに生きてきたのに対して、ハルカたちはまるで獣だ。ニュースでは、小学生の骨密度がゆとり世代の7倍にもなったと伝えられていた。よく骨折に苦しめられていた旦那と私はこのニュースを聞いて感心した。

 今日もハルカは食後のデザートに、野良猫のように骨をバリバリ食べている。それを見て旦那が一言、言った。
「すげえな。ハルカたちは新世代だ。まさにネクスト骨(ホネ)レーションだ」
 うまいこと言うなあ。いや、ただのシャレか。そう思いながら、私は食器を片付けた。