月曜日と粉

 月曜日は粉でできている。そんな愚言を吐いたのは、近所の写真屋の岡田さんだ。岡田さんは粉に味をつけるため、月曜日になると砂糖やら塩やらきな粉やらを店の表にまき散らした。すると、月曜日が嫌いで仕方なかった中学生やサラリーマンや大学教授などがフラフラと花に群がる蝶のように集まってきた。
 私はそれを見るたびに、彼らを軽蔑したものだ。月曜日を粉と考える、その感覚が信じがたい。月曜日と言えば、希望に満ちた1週間の幕開けであり、スキップして新たな気持ちで会社に出社するのが普通ではないのか。私の人生は充実の一途を辿り、下降の気配はまるでない。邪魔はしないでほしい。
 毎週月曜日が来ると、写真屋の前が祭りのように変わる。私はそれに我慢ならず、ある月曜日、遂に、岡田さんがまき散らしている砂糖を浴びて、恍惚とした表情を浮かべているラグビー部員のようなサラリーマンに思い切って話しかけた。
「あなたも粉なの」
「そうだ。狂おしいくらい」
「そんなに立派な身体をしてるのに」
「関係ない。粉は粉だ」
 私は彼の肩についている砂糖に指をつけ、舐めた。それは確かに砂糖だけの味ではなく、砂糖をつけた粉の味がした。
「甘いだけじゃない。少し粉っぽい」私が率直な感想を述べる。
 彼は答えた。「そうだよ。それが月曜日の味だ」
 格好つけるんじゃないわよ! その詩人気分が月曜日を粉にしてるのよ!などと言って平手打ちでも食らわせてやりたかったが、砂糖の粉っぽい食感がとても気持ち悪くて、私はうがいをしに急いで家に帰った。