作曲家とマヨネーズ

 私がちいちゃんの家に行くと、知らない人がたくさんいた。ちいちゃんは顔が広いので、会うたびに知らない人と一緒にいる気がする。決して社交的とはいえない私からすればうらやましいが、ちょっと疲れてしまうところもあった。ちいちゃんは料理を振る舞うことに夢中だったので、あっさりとそこにいる人たちの紹介をして、そのまま台所に消えた。テーブルに残された私は、同席した人たちの名前を覚えようとしたが、いっぺんに忘れてしまった。
 同席した人は3人いた。お米屋さんと、バーテンダーの人と、作曲家の人だった。作曲家の人は、ちいちゃん曰く「すごく有名だ」とのことだったが、音楽に詳しくない私は曲名を言われても全然誰だかわからなかった。その薄いリアクションを見て、作曲家の人は少しだけ残念そうな顔をした。
 その場で何を喋ったかはあまり覚えていない。確か芸能人の恋愛とか、他愛のない話だったような気がする。
 お米屋さんとバーテンダーの人は先に帰ってしまい、料理をし終わったちいちゃんと私と作曲家の人が後に残された。ちいちゃんは作曲家の人を指して「ほんとにすごいんだって」を連発したが、曲を知らない私にはどうすごいのかがわからなかった。
 ふとそんな時、テレビをつけていると、マヨネーズのCMが流れた。私にも耳覚えのあるメロディだった。すると、ちいちゃんははしゃいで、「これだよ。これ作ったの後藤さんなんだよ」と言った。その時、私は作曲家の人が後藤さんという名前だったのを思い出した。私もそのマヨネーズの曲は好きだったから、「知っています。すごいですね」と言った。本当にすごいと思っていた。でも、後藤さんは「全然すごくない。2、3曲作曲したくだいじゃ食べていけない」と言って謙遜していた。私は作曲家なんてお金持ちだと思っていたから意外に思った。
 それから2時間くらい飲んでいただろうか。後藤さんが終電がなくなるからということで会はお開きになった。私と後藤さんはとぼとぼと駅まで歩き、お互い反対方向だったので、先に電車に乗った後藤さんを私がホームから見送った。家に帰る前に24時間営業の西友に寄った私は、後藤さんがCMの曲を作ったマヨネーズを買っていこうと思った。そうすれば後藤さんに少しはお金が入るかなと思ったからだ。