目が覚めるとそこに鶏肉が

 恭二は深夜のつまらない映画を観ながら、昨晩自分の言ったことを後悔していた。同棲している恋人の沙良は鶏肉しか料理のできない女で、ついついそのことに対する不満をぶちまけてしまったのだ。
「おまえ、いい加減にしろよ。いつもいつも鶏肉ばかりで、俺を鳥にするつもりか」
「そんなことないわよ。あなたがブクブク太ってばかりいるから、低カロリーで高タンパクの鶏肉を食べさせてあげようと思ったんじゃない」
「うるせえ。たまには牛肉をもってこい!」
「いやよ」
「じゃあ出てけ」
 こうして沙良は家を出て行った。しかし、彼女が家を出て行った後、恭二は思う。沙良は自分の健康を考えてやってくれていたというのに、俺はなんて嫌な男なんだと。

 そのまま恭二が眠ってしまうと、どこからか鶏肉の匂いがした。沙良だ。沙良が帰ってきたに違いない。そう思って恭二が目を覚ますと、そこには学生時代の親友・鈴木が立っていた。
「なんだよ。びっくりするじゃんか」
「いやいや、鍵が開いてたからさ。焼き鳥買ってきたからさ、一緒に食べようぜ」鈴木の手元には焼き鳥があり、そこからモクモクと沸き立つ煙が鶏肉の匂いを発していたのだ。
「おいおい、深夜の2時に突然やってきて、焼き鳥かよ」恭二は笑い出した。鈴木のこういった非常識な振る舞いが、いつも恭二を楽にさせてきた。
「それより沙良ちゃんは? 実家でも帰ったの?」
 沙良が出て行ったことを説明すると、鈴木は謝った。
「ごめんな。そうとは知らなかったからさ」
「いや、いいんだよ。それより焼き鳥食べようぜ」
 恭二は焼き鳥を食べながら、その目からは涙がポロポロと流れてきた。2人は倒れるまで飲み続け、やがて寝てしまった。

 その翌朝、恭二は再び寝ながら鶏肉の匂いを嗅いだ。鈴木がまた焼き鳥を焼いているのだろうか。そう思って目を開けると、台所で沙良が鶏肉を焼いていた。
「あら、おはよう。2人で飲んでたんだ」
「おまえ、戻ってきてくれたのか」
「ちょっと心配になったからね。でも、鶏肉を食べさせることだけは絶対に譲らないわよ。ずえったいに!! 私は太った男が本当に苦手なの。だからあなたにはそのままのスリムなボディでいてほしいのよ。ねえ約束してくれるかな? 私と一緒に住む間は、鶏肉しか食べないって」
「もちろん!」そう言って恭二は沙良に抱きついた。部屋には鈴木のいびきがガーガーとこだましていた。