エツパチコはよくある手法

 3年間、グルジアに留学していた私が久しぶりに日本へ帰ると、テレビに出ているのは知らないタレントばかりだった。
 と、ここまではよくある話だったが、誰もが口を揃えて「エツパチコ」という言葉を言うのが気になって仕方なかった。最初はただの流行語だと思っていたが、どうやらそうではないらしい。私がたとえば電車の中で若者に席を譲ってもらって礼を言ったとする。
「ああ、ありがとう」
「今のエツパチコですよね」
 また、久しぶりに会った幼なじみの友達と居酒屋で料理とつついていた時もそうだった。
「このじゃがバター、おいしいな」
「エツパチコだな。よくある手法だよ」
 親とテレビを見ていた時もそうだった。
「最近の日本は物騒な事件が多いね」
「あんた、そんなエツパチコはやめなさい」
 走ってバスに乗ろうとした時もそうだった。
「すいません。乗ります!」と車内に駆け込むと、
「エツパチコだ」という高校生たちの囁き声が聞こえた。
 人々が言うエツパチコとはどういったものなのだろう? 私は辞書を調べ、ネットで検索してみたが、エツパチコという言葉はどこにも見られなかった。友人の言葉を借りるならばそれは「手法」であるとのことだったが、一体どういった状況でその手法が使われた時にエツパチコになるのか、全くわからなかった。
 私は友人や家族にエツパチコの定義を聞いてみたが、皆が言うのは「教えようがない」とのことだった。私は混乱し、エツパチコの概念がわからないようであれば、日本に住み続ける資格がないのかと思い込み、再びグルジアに留学することを決めた。