土土土土土(ドドドドド)

 母から土の中に埋まるように言われて3週間が過ぎた。母は自分の言った命令のきつさに気がついたのか、僕が埋まって以来、毎食欠かさずに食事を持ってきてくれる。しかし、決して土の外に出ていいとは言わない。
 僕がこうして土の中に埋められたのは、インターネットをやりすぎた罰だ。僕が友達も作らずに、朝から晩まで部屋にこもってパソコンの画面で目が焼けそうになっているのを見て腹を立てた母は、僕が寝ている隙に手足を縄で縛り、首だけ地中に出した状態で家の裏にある畑に埋めた。その日は18時間ぶっ通しでオンラインゲームをやっていて疲れていたから、埋められている間も全く気がつかなかった。
 最初の1週間はパソコンがないので退屈で仕方がなかった。幸いにも母は毎食違うものを作ってくれたから、食事だけが唯一の楽しみだった。僕は1日12時間、ご飯を食べている間はほとんど眠りながら過ごしていた。
 それが2週間を過ぎたあたりから自分の身体の中で変化が起こってきた。母はそんな変化を察したのか、僕の顔を見て「いい顔になってきたわね」と言う。3週間経った今は、パソコンなんてまるで必要なくなっていた。
 僕の身体は土を通して、地球上のあらゆる事物とつながっていた。それは理屈では説明できないものだった。海の中で魚同士が超音波のようなもので交信しあうように、蝶と蝶とがフェロモンを出しあって互いにひきつけられるように。
 今日起こったことで楽しかったのは、ニュージーランドに住むカブトムシの群れと交信できたことだった。彼らは日本に興味を持っており、何世紀かかるかわからないが、ゆくゆくは移動してみたいと言う。そんな僕らの会話を聞いた、ロードハウ島に住むロードハウナナフシがカブトムシに昆虫の視点でとらえた日本の情報を送ってくれた。ロードハウナナフシは3000万年前ほどに日本にいたことがあるらしい。
 いまや僕は確信する。インターネットがなんぼのもんじゃい。世界は土と土とで地続きでつながっており、その交信速度の速さや広さはLANケーブルなんて目じゃない。母は僕に「そろそろ出てもいいわよ」と言ったが、僕は断固拒否し、土の中で生活することに決めたのだった。