日本が勝ったらしたい3つのこと
日本が次の試合に勝ったらやろうと決めていることがある。俺は行動力がないため、こういったことに後押しされないとできないからだ。俺はやりたいことのリストを書き出してみた。そこにはちょうど3個あった。よし、きりがいい。
それらの3項目を書き出してみよう。
■マンションの同じ階の人に自分が作ったホットケーキを配る
俺はホットケーキを作るのが趣味で、朝から晩までホットケーキを作っている。仕事をクビになって以来、ホットケーキを作ることくらいしかやることがないからだ。どうやら俺の作るホットケーキは相当いい匂いがするらしくて、マンションの同じ階に住む人にエレベーターとかで会うと、「いつもおいしそうな匂いがしますね」と言われる。俺はぜひ彼らに自分の作ったホットケーキを食べてもらおうと思うが、俺は恥ずかしがり屋で自意識過剰なため、どうにも実際に配って回ることに躊躇してしまうのだ。
■ガムを買う
憶病者な俺は今まで29年間生きてきてガムを噛んだことがない。小さい頃にテレビでガムを食べていて窒息した子供のニュースを見て以来、ガムを食べることは生命の危険を伴うことだという固定観念ができてしまっているのだ。しかし、ガムを食べるCMのタレントの顔などを見ると、そんな危険とは無縁のようにも思える。ただ思い込みとは怖ろしいもので、俺がコンビニなどでガムを手に取ろうとすると体中が震えるのだ。
■近所の川に落とした筆箱を拾う
俺の近所には汚いドブ川があり、俺は小学校2年生の時に、大事にしていた筆箱をこのドブ川の中に落としてしまった。川に落としたというと、親に怒られそうだったから、俺は近所の上級生に脅されて奪われたということにしておいた。親は代わりの筆箱を買ってくれたが、俺は川に落とした筆箱のほうがデザイン的に好きだった。
川に落ちた筆箱はそのうち川のかさが増した時にでも流されるかと思っていた。しかし、それから20年以上経った今も、俺が落としたその場所に落ちている。橋の上から見る限りはずいぶん変色してしまっているようにも見える。俺はこの20数年間、あんな汚いドブ川で生き抜いてきた筆箱にシンパシーを感じるようになり、いつの日か拾いあげようと考えてきた。しかし、この橋は人通りが多いため、いい年した大人が川に入ると、目立ってしまう恐れがあるため、拾うことはできなかった。
さらには親もあの筆箱の存在を忘れているだろうというのもある。脅されて奪われたと嘘をついた後に拾ってこようものなら、なんで筆箱が2つもあるのだと叱られていたかもしれないが、今となっては親も子供の頃の筆箱のデザインなど覚えていないに違いない。
これらの3つの項目をリストに書いて俺は興奮した。長年胸に抱いてきた夢がいよいよ叶う日が来るのだ。
そして試合が始まり、俺の期待通り日本は快勝した。俺はどんなことがあってもこの3つの項目を叶えるのだと誓い、布団に入って眠った。