ヘスの遊び方、教えます

 舳崎須磨(へざき・すま)、通称ヘスは自称遊びの天才であった。ヘスはゲームをたくさん持っているし、ラジコンだって、プラモデルだって何だってある。そう、ヘスの親はうなるほどの金を持っており、ヘスはその恩恵を浴びるほど受けていた。
 ヘスは自分のような遊びの天才の才能を多くの人に伝えようと思い、クラスメートに対して遊びとは何かを説いて回った。
 ヘスの遊び方の信条は以下の2つだけだった。

・とにかく金をかけろ
・新製品はすぐに買え

 この2つさえ守れれば、誰でも遊びの天才になれるのだ。それなのに、クラスメートは実践しようとはしなかった。彼らには金がなかったから、それができなかったのだ。
 ある日、こんな事件があった。体育の先生が休んだ時に、クラスを見に来た数学の先生が「みんなの好きな遊びをやりなさい」と言った。この数学の先生は今時珍しいほど、勉強よりも遊びを重視する先生で、生徒からの信頼も厚かった。しかも次期教頭のNO1候補と言われており、学校側からの信頼も厚かった。この先生が言うのだから、間違いない。生徒たちは何をして遊ぼうかということを熱く議論した。
 生徒たちは様々な遊びを提案した。貧困ゲーム、嘔吐大会、リストラごっこなどなど。そのどれもがオリジナリティに富んだもので、数学の先生は感心しながらその議論の成り行きを見ていた。
 これを見ていて面白くなかったのがヘスだった。遊びの天才は自分なのに、なぜこいつらはよく意味のわからないゲームを考えてゲラゲラ笑っているのだろう。遊びの天才をさしおいて、このような無礼は許されるべきではない。
「キミたち、遊びの天才である俺から言わせてもらうと、そんなのは遊びじゃない!」
 ヘスが発言すると、クラスに緊張感が漂った。もともとうなるような金持ちのヘスの言動や行動には常日頃から注目が高かった。
「本当の遊びと言うものを今から教えてあげよう。確か今日はゲームの発売日でいくつか新製品が出ているはずだから、今からそれを買ってこようと思う。そうすれば、非常に楽しい遊びの時間が過ごせるぞ」
 ヘスの言うことに皆が黙って従った。数学の先生はこれでいいものかと思ったが、素直にゲームを買いに行かせてあげた。ヘスがゲームの山を持ち帰ってくると、皆は黙々とそれに熱中した。ヘスは得意げだった。数学の先生は何も言わなかった。
 ヘスは家に帰り、家族にその日の出来事を語った。家族はそれを賞賛した。ヘスは部屋にこもり、うっとりとその日起こったことを思い出しながら、将来は自らの遊び方を本にしようと思った。タイトルは『ヘスの遊び方、教えます』だ。自分の遊びの才能を少しでも世に提供できれば、日本は遊び好きな国民になるに違いない。そう確信し、何度もひとりでガッツポーズを決めた。