いい映画館の条件

 外は暑くて明るいから、今日も一日中映画館にいて過ごした。ここの映画館は本当に自分の好みに合っていると感じる。仲間にも会ったが、誰もがいい映画館だと言っていた。別に一銭も払わずに映画館に入っているのに、こんなことを言うのもなんだが、自分にとっていい映画館の条件とは何だろうとふと考えてみた。

■人が多い
これは必須だろう。お腹がすいた時にむき出しの手足がそこら中にある。しかもみんな映画に夢中だから、近づいても警戒されることはない。

■冷房が効きすぎていない
寒くなると体が動かなくなる体質のため、これだけは勘弁。新しい映画館は気合いを入れて冷房を効かせるので苦手だ。まあ、暑くて明るい外に比べたら全然ましなのだが。

■照明が暗い
ロビーの照明が明るい映画館では存在を気付かれてしまうことが多い。全体的に照明が暗いと、移動する時も警戒しなくていいから安全である。

■ペットがいない
ほとんどの映画館はペット不可だが、前に一度入った映画館だと、なぜかそこら中に犬や猫がつながれていたため、匂いを嗅ぎ分けるのに苦労した思い出がある。やはり人間しかいない場所のほうが、場所を把握しやすい。

■水溜りがある
たまに不潔な映画館だと、トイレや配電盤のところに水溜りがある。そうすると、突然産気づいた時に産めるのが便利だ。

■暗い映画ばかり上映している
やたらと明るいシーンが多い映画だと、栄養補給をしている間も落ち着かない。照明が暗い映画だと落ち着いて手足に止まっていられるからいいのだ。

 基本的に映画館では、人間たちのガードもゆるくなる。私たちがそこにいるとは思わないからだ。欲を言うと、映画の内容が理解できれば余計に楽しいのだが、そればかりは仕方がない。私たちの目は発達していないから、明るいか暗いかをぼんやりと知覚することしかできないのだ。だから、人がたくさん入っている時は、きっと面白い映画なんだろうなあと思うし、手足がやけに熱くなっている場合も、映画を観ながら興奮しているんだろうなあと思う。
 私の寿命は15日くらいしかないし、どうせ短い人生であるなら楽しいほうがいい。親たちの古い世代は、もっと外に出ろと言うが、今は時代が違う。何ならこのまま一生ぬくぬくと映画館の中で過ごしてもいいだろうと思っているのであった。