お客さん

 これを読んでいる人にはちょっと信じられないかもしれないけれど、うちにはなぜかしょっちゅうお客さんが来る。彼らはうちに何を求めているわけでもない。だってうちには何もないし、私自身が面白い人間であるわけでもない。ただ。なんとなく立ち寄りたくなってしまうらしいのだ。その理由は人によって様々だ。おなかが減ったという人もいるし、トイレを借りたいという人もいる。畳の匂いが嗅ぎたくなったという人もいる。誰でもいいから話したいという人もいる。
 その人の求めるものが何であれ、私はうちに快くあげてあげる。悪い人だったらどうせそれまでだ。私はひとり暮らしで仕事もないから、どうせ時間は余っている。彼らの役に立つことで、少しでも生きている実感を得たいだけなのだ。今日来たお客さんは醤油を貸してくれという理由だった。お惣菜屋で餃子を買ったのはいいが、店員のミスで醤油が入っていなかったそうなのだ。私のうちにはあまり食材が豊富なほうではないから、近くにスーパーに行って買ってくるからそれまで待っていてくれと言った。私が戻ってくると、彼はテーブルを濡れ雑巾で拭いてくれていた。私はそれを見て何ていい人なんだろうと思った。その後も彼が餃子をすすめるので、私と彼はテレビの相撲中継を見ながらちょっと早い夜ご飯を食べた。彼は白鳳関を見ると、親戚の甥っ子を思い出すと言って笑った。
 彼と私がご飯を食べていると、そこにまた新しいお客さんが来た。彼女は旦那と喧嘩してしまい行くところがないらしく、たまたま通りかかったら私と彼の笑い声と餃子のいい匂いがするから立ち寄ってしまったらしい。私は快諾し、彼女も一緒に餃子を食べた。2人とも泊まるのかなと思っていたら、男の人は終電で帰ると言い、女の人は歩いて帰ると言って帰っていった。私は散らかった餃子をそのままにして眠ることにした。どうせ時間はあるのだから、後片付けは起きてからでもいい。
 明日はどんなお客さんが来るのだろう。私は今日もそんな楽しみにワクワクしながら眠りに落ちる。