ケスケスケケスで文学賞

 第28回栗山賞が発表された。この賞は最も影響力があると言われている文学賞で、これまでも数々の有名作家が受賞してきた。しかし、今年の栗山賞の受賞者の名前を聞いて誰もが驚いた。並みいる有力候補を押しのけて選ばれたのは、群馬県に住む虫山信吾という無名作家だったのだ。虫山の小説は一部のコアなマニアの間では話題となったが、一般人にはとても理解できない内容だった。何しろそこに書かれている言語は日本語であるかどうかも判別がつかないからだ。
 たとえば、今回の受賞作『キ、ロロポ、クルジ波、の頭と虹さく』の書き出しはこうだ。

 
 クサクテもしも巣が楽バラ輪不不不ヒジュヨウコイウヨクマジウユキキラウシュ授受葉はフジ九個歩古希ら奥ぬ。佐々木楽時汁は富士くらい石雛の吹き。ジム腹冬不熟軸国富中フジ苦ぬ不不下不テロ。
「う塾越すじゅりるらき気楽獅子フジ樹えら」
「う従来九九時事蔵億時汁苦」
「フフジュブッフ」
「苦照り不ぬも」
 聞く楽侍従る不冬竜ひじゅここぽ栗生。ケスケスケケスで苦蔵軸、くじチュ受理不皮膚。


 このような暗号文のような文章を読んで一体何を理解できるだろうか? しかし、一部のファンたちは「これまでの文学作品を全てぶち壊す革新的な作品だ」と言ってもてはやした。
 虫山が授賞式のインタビューで何を語るかに注目が集まっていた。あのような難解かつ意味不明な文章を書く人間に、果たして通常の日本語が通用するものだろうか。報道陣の緊張感が張り詰める中、そこに登場したのは、こぎれいなギンガムチェックのシャツと銀ぶちメガネをかけた、意外にも普通なルックスの青年で誰もが拍子抜けした。
 虫山は自分のプライベートについて詳しく語ることは避けた。理由は、あまりに普通の経歴のために語るにも及ばず、今も一般企業でフルタイム勤務をしているため、周囲に迷惑をかけたくないというものだった。しかし、この作品のテーマについて聞かれると、その重たい口が開き、言葉がつるつると溢れるように出てきた。
 彼は本作についてこう語る。「僕が書きたかったのは、ケスケスケケスです。今の時代に必要なのはケスケスケケスであって、それさえ書ければ僕は何でもよかった。僕の作品を熟読してくれた方ならわかると思いますが、この中にはケスケスケケスが溢れています。ケスケスケケスについて知る人が増えることが僕にとっての幸せであります。次作の構想ももう出来ていまして、そこでも僕はケスケスケケスについて書きたいと思います」
 確かに、意味不明の言葉が並ぶ中で、ケスケスケケスという文言はなんと765回も書かれていた。人々は肝心のケスケスケケスについての意味について聞きたかったが、本人は「それは自分で見つけるものですから」と言ってお茶を濁すのみだった。