えん君とこう君

 遠(えん)と高(こう)が出会ったのは小学生3年の頃だった。2人は同じクラスになり、お互いの名前が簡潔で珍しいこともあって意気投合した。遠の親は「遠くまで行けるように」という願いを込めて命名。高の親は「高くまで行けるように」という願いを込めた。
 遠と高はお互いにこの名前の由来について話し、自分の名前に恥じない人生を送ろうと誓った。やがて2人は別々の中学に行き、ほとんど連絡を取ることはなくなった。しかし、このときの約束を2人とも片時も忘れることはなかった。
 遠は世界で一番遠くに行くために、世界中を旅したが、地球は思ったよりも狭く、どこの国へ行っても遠くに来た感じがしなかった。そして何よりも、自分よりいろんな国に行っている人がゴロゴロいるのが嫌だった、
 高は世界で一番高くに行くために、世界中の山を制覇していったが、チョモランマやマウナ・ケアを登るとそれ以上目標とする山は地球上に存在しなくなった。そして遠と同じように、高い山に登っている人がゴロゴロいるのが嫌だった。
 やがて2人はより遠く、より高くを目指すためには、宇宙に行くしかないと思い、JAXAに入った。2人はそこで小学校以来の再会を果たし、約束をお互い破っていなかったことに感動した。遠と高は常に成績の上位トップ2を占め、宇宙飛行士としてデビューを果たした。しかし、2人は何度か宇宙に出ることはあったが、それでも満足することはなかった。遠さは無限に遠さがあり、高さは無限に高さがある。2人はこのような名前をつけてくれた両親に感謝しながら、まだまだ遠く、まだまだ高くを目指して日々奮闘し続けているのだった。