水の恨み

 ナカノのローク・カトウはスギナミのカッツ・エンドウを確実に仕留めるために電子プラグをよく磨いた。エンドウはカトウとの先日の取引で50リットルの天然水を支払っていたが、これが天然水ではなく人口水と判明。カトウはエンドウにテレパプで抗議を告げたが、エンドウはテレパプを遮断し、連絡を受け付けなくなった。
 もともとエンドウは水の支払いが悪いと言われている。ネリマのジュジュ・オカダもエンドウのこの詐欺行為に業を煮やし、何度か襲撃行為を働いたことがあるという。ただ、エンドウはアメリカ資本の電子警備会社「アトロン」をバックにつけているため、なかなか尻尾をつかむのが難しい。しかし、カトウには日本が誇る情報掘削会社「くらげ」の存在があるため、エンドウがどこに逃げても居場所をたどることができた。
 カトウはエンドウから支払われた人口水を、顔をしかめながら飲む。もう人口水の味はさすがに飽きた。天然水が腹いっぱい飲めると聞いたからあれだけ命がけのミッションを引き受けたというのに。そんなカトウの脳に、エンドウの居場所を告げる通知が入る。カトウは磨き終わった電子プラグを陽子分解マシンにつなぎ、スイッチをONにした。自分の手にも振動を衝撃が伝わってくる。電子プラグからはエンドウの悲鳴が聞こえる。会話モードを開放しているため、カトウの声も聞こえるはずだ。カトウがエンドウに言う。
「どうだ、苦しいか。これも全て俺たちに人口水をつかませた罰だ。おまえはさんざん天然水を飲んできていい思いをしてきたんだから、最期くらいこんな辛い思いをしてもらってもいいだろう」
 カトウはエンドウの声を聞いて悲鳴を止め、恨みがましい声で言った。
「天然水は天然水が行きたい場所にしか行かないんだ。俺ほど天然水に好かれた男も珍しいだろう。おまえらにはしょせん天然水を飲む資格はない。人口水レベルだよ」
「ほざくな! くたばれ!」
 エンドウは破壊指数をあげ、カトウの生命反応は消える。エンドウはグラスに入った人口水を手にとり、これまでカトウに苦汁を舐めさせられてきた人々に乾杯する。だけど、エンドウは知っている。カトウのような人間を消したからと言って、天然水が人々に出回ることなどないと言うことを。今後もまたカトウのような人間が現れ、天然水を牛耳ることでアコギな商売を続けていくに違いない。