俺は携帯で人を判断する

 たとえば、電車の中でものすごくいい女を連れているイケメン君がいるとする。頭からつま先までオシャレに決めていて、非の打ち所がない。周りにいる男たちは、彼のことを憧れの眼差しで見つめているが、俺は違う。俺は奴の携帯を見るまでは、判断することはできない。そこで奴が持っている携帯が、俺の認める機種で、手入れも行き届いていれば、そいつの価値を認めよう。だだ、その逆であれば、俺はそいつのことを一生軽蔑するだろうし、友達にもなりたくない。
 こないだも同じようなことがあった。年収2億と言われる社長がテレビに出ているのを観ていたときのことだ。俺は何よりも、社長の携帯に注目していた。すると、あろうことか、その機種は3年前に発売された化石のようなモデルだったのだ。年収2億の社長が3年前の機種だと? ありえないだろ。年収2億の社長だったら、しっかりそれらしい最新型の機種を持たないと部下はついていかない。少なくとも、俺はこんな社長が勤める会社には就職したくない。
 俺は仕事で取引先の人間と初対面のとき、まずは携帯を見せてくれと言っている。名刺などいらないし、長ったらしい挨拶も不要だ。「そんなことはいいので、あなたの携帯を見せてください」と言うと、相手は面食らうが、そんなことは関係ない。俺には俺のルールがある。そこで俺の認めないような携帯が出てきたらアウトだ。一生仕事はしない。もちろん俺の認める機種が出てきたら、俺はそいつと仕事をするようにしている。
 よくわかっていない人間は俺に、「趣味が携帯なんですか?」などと愚鈍な質問をする。俺が携帯の話しかしないからだ。そういう質問に対して俺は、怒りをあらわにし、「携帯は俺の人生の全てです」と話す。人々は携帯の重要さがわかっていない。そのうち、スーツや革靴などは姿を消し、とにかくいい携帯を持つ男が認められるという時代が来るだろう。そして携帯は宗教のようになり、神のように人々が祈るだろう。そんな日が来るとわかっているのに、どうして他のことに興味を持つことができよう。今週末の土日には、携帯ショップを回って新機種をチェックし、自分の携帯のメンテをしてもらおう。夜には携帯の愛好者同士のオフ会に出席し、親睦を深め合うのだ。
 朝から晩まで携帯漬け。機種もメンテもばっちり。携帯についての会話だったら一日中でもできる。しかし俺には彼女がいない。なぜなのか? それは女たちが悪いからであり、レベルが低いからだ。世の中の女たちは本当に男を見る目がないと思う。