ミランダの嘔吐とキッス

 イギリスの片田舎に住むミランダは、世の中すべての事柄にほとほと辟易していた。ミランダは過去にロンドンでモデルとしてデビューし、DJをしたりCDを出したり女優としてドラマに出たりもするティーンからの憧れだった。しかしもともと根っからのひねくれ者だったミランダはこういった全てが突然バカバカしくなり、自分の生まれ故郷に帰ることにした。昔からの友達はスーパーセレブになったミランダが帰ってきたことで、背伸びをして精一杯のパーティで毎晩もてなしたが、ミランダがまるで楽しそうでないのを見てフェイドアウトしていった。ミランダは現在、ロンドンで貯めた貯金を切り崩しながら、部屋にこもってネットを見ながら時間を浪費している毎日だ。
 21歳という年齢で経験しうる大抵のことを達成してしまったミランダは、次なる目標が何も見えてこなかった。だがある日、世の中の全てに対して胸をムカつかせていた時に吐き気を催したのがきっかけで、自分のやりたいことが突如見つかった。私のやりたいことは、この世界にツバを吐くことである。いやいや、ツバでは物足りないので、どうせだったら嘔吐してしまえばいいではないか。
 そう考えたミランダは世界中の言語を勉強し、Youtubeで自分の嘔吐する映像を流しながら各国の言葉でメッセージを送った。日本語での内容はこうだった。「こんにちは。私はミランダです。私は世界がとても嫌いなので、今からオート(嘔吐)します」元モデルの美女が、このようなショッキングな映像を流したことに対し、世界からはヒステリックな反応を呼んだ。ミランダは自分の嘔吐の映像を世界各国にメッセージ付きで届けて、彼らからのコメントをもらうことで(言語能力が間に合わなかったため、そこまで詳しく理解はできなかったが)、自分の本当の夢がどんどん達成されていくのを感じた。別にロンドンなんかに住む必要はないじゃないか。自分がしっかりとした熱意を持っていれば夢など叶うものなのだ。
 193ヶ国に対して自分の嘔吐映像を見せ終わったミランダはしばらく休息に入ることにした。文字通り世界に対して嘔吐し終わった今、ミランダは世界のことがすっかり好きになってしまっていた。今度は投げキッスの映像でも送ろうか。嘔吐とキッスの映像を世界中に見せた女なんて自分くらいのものじゃなかろうか、とミランダはほくそ笑む。