サは鎖国のサ

 今日また外国人に媚びを売っている日本人を見た。不愉快で歯ぎしりし、「おい、ここは日本だぞ!」と怒鳴って空き缶でも投げつけてやろうかと思ったくらいだ。ああいう無責任な日本人は日本人であることの誇りを忘れてしまっているし、見ていて哀れになってくる。日本がこんなに素晴らしく便利な国なのに、どうしてわざわざ言葉の通じない人間たちと話す意味があるのだ? どうしてわざわざ不便で危険な国にノコノコと出かけていこうと思うのだ? 俺にもう少し権力があったなら、間違いなく外国人と接した日本人を罰してやる。外国の文化に興味を持つ日本人も罰してやる。
 実は俺の親戚にひとり、外国かぶれな従兄弟がいる。そいつは小さい頃から俺とウマが合わなかったのだが、高校のときに海外留学なんぞしやがって、その亀裂は決定的なものになった。自分と血がつながっていると思うだけで、恥ずかしくてならない。今でもたまに冠婚葬祭などで会うことがあるが、絶対に口をきかない。外国に行ってきた奴っていうのは、日本をバカにしているのが痛いほど伝わってくるんだ。奴らは日本人としての誇りを忘れてしまった、中途半端な半人前の宙ぶらりん人間である。
 そう言えば、こないだ同僚とランチしていた時に、俺がこいつとは気が合うかもしれないと思っていた保田が外国に行きたいと言っていて心から幻滅した。なんでも保田は過去にも2回ほど海外旅行に行ったことがあるらしく、そのうち1回はホームステイをしたらしい。そのまま放っておいたら保田が海外の話をするのを止めなそうなので、俺はすぐに話題を車の話とお笑いの話に切り替えた。会話は何事もなく終わったが、俺はもう保田とランチに行くことはないと思う。その場に一緒にいた勝山もきっと不愉快な思いをしたに違いない。きっとそうだ。俺と勝山は同じ感覚を持っているはずだから。
 勝山と俺は入社した時からの親友的な関係で、何度か2人で旅行したこともある。今度の春休みも2人で温泉に行こうかという話をしている。勝山がおすすめの秘湯が栃木県にあるらしいのだ。日本は本当に観光名所の宝庫だし、一生かかっても回りきれないと思う。それだから外国に行っている暇などないのだ。保田はきっと、いい温泉にも入ったことがないのに外国に行きたいなどとぬかしているのだろう。全くの笑止千万だ。俺には正直そういう感覚が理解できないし、断固として否定したい。
 最近、俺はよく妄想するんだ。自分がこのままビジネスマンとしてのスキルを磨き、経営者として成功し、ゆくゆくは政治家になり、日本人の日本人による日本人のための国家を作り上げる。まさしく神の国家ではないか。地球とか世界とか、そういう我々に関係ない話は一切なかったことして、仲間うちでワイワイやれる国を作っていけばいいのだ。それの何が悪いというのだ?