肩こりはゲームだ

 社内の代表選考会に出向くと、そこには見るからに肩がガチガチに凝ってそうなツワモノたちが集まっていた。しかし、この私もここ2週間満足に寝ていないし、姿勢も悪いほうに矯正してきた。この日のためにさんざん凝らせてきたのだから負ける気はしない。
 総合審査員を務める木口部長、吉永部長、本木専務の3人が各人の肩を触り、揉み、針を刺し、その固さやこわばり、血の濁り具合などを見ていく。それぞれが点数を自らのシートに書き記し、合計点数を競う。審査員たちが点数を書く姿を選手たちは緊張しながら見つめる。集計員の長澤経理部長がシートを回収し、計算機で計算し始める。そして、ついに1位が発表された。呼ばれたのは、私の名前だった。私は感激し、涙を流した。この日のためにどれほど辛い思いをして頑張ってきたことか。昨年、一昨年も代表選手を目指してはいたが、同期の小柴に負け続けてきた。しかしそんな小柴も今年の初めに転職していた。ある意味、私が選ばれるのは当然のことであり、選ばれなくてはならなかった。
 社長が私の肩に手を置き、こう言った。「おめでとう。いい凝りだな。さすが代表に選ばれる選手の肩こりは違うな。君ならきっと勝てるはずだ。頑張ってくれたまえ」
 私は深々と頭を下げて礼を言った。「ありがとうございます! 試合では我が社の名前に恥じぬよう、全国に激しい肩こりを見せてこようと思います!」
 ギャラリーからの拍手が会議室にこだまする。厚労省主催の企業別肩こり選手権は、来月に迫っていた。この選手権はある意味、その企業の社員がどこまで自分の体を痛めつけて仕事に励んでいるかの絶好のアピールになる。選手権の上位にいる企業は、それほど充実した働き甲斐のある仕事をさせているということで、一気に就職ランキングの上位に躍り出る。学生たちは今、何よりも自分の体を犠牲にしてもやりがいのある仕事を求めているという証なのだ。
 私の身は引き締まり、プレッシャーやストレスでさらに肩が凝るのを感じる。いい兆候だ。これからの1ヵ月、不健康なジャンクフードや焼肉などを食べ、野菜を摂取しないように心がけて血をドロドロにしよう。家のベッドで寝るのもやめて、会社のフロアに寝るようにしよう。