こそばいからバイバイ

 私がペットとして飼った5代目の蚊は私の欲求を満たさない。私は、蚊にはズブリと思い切り皮膚を刺してもらい、ちいっと舌打ちをしたくなるほどの痒みを与えてほしい。しかしこの5代目は蚊とは思えないほどのフェザータッチで皮膚を撫でるほどで、痒みも全然甘い。私はこんなこそばい蚊なら不要だと思い、購入したペットショップにクレームの電話を入れた。
 しかしペットショップの電話はつながらず、苦い思いをさせられた。この蚊は2万円を出して購入したため、返金してもらい新しい蚊を買いたいと言うのに。私は5代目の顔を見て言った。
「私はあんたみたいなこそばい蚊とはバイバイしたいの」
 すると蚊は不満そうな顔を浮かべる。自分もやる気になれば出来るのだとでも言いそうな勢いである。
「何よ、その顔。それならやってみなさいよ。ズブリと刺してみなさいよ」
 私が手を出すと、5代目は一瞬呼吸を置いて皮膚の上に止まる。ズブリ。そして、ひいいと痒い! やればできるじゃないか。蚊だって人間だって、危機感を感じればしっかり仕事ができるということが証明された。