わたくしのささやかな栄光(やや自慢)

 本日はこのような講演会の機会を設けていただき誠にありがとうございます。あ、拍手もいただきありがとうございます。小西です。わたくしはしがない一市民ではありますが、わたくしのやったことは決して小さくなかったのではないかと今では自負しております。
 わたくしが行動を起こしたきっかけは、TVのニュースで国外逃亡する若いサラリーマン夫婦の映像を観たからであります。彼らの自分勝手な行動を見て義憤にかられたわたくしは、友人3人に声をかけ、成田空港と羽田空港の襲撃作戦を企てました。そしてインターネットで仲間を募集したところ、なんと一晩で30万人からの返事が集まったのです。わたくしと友人1人は成田、残りの友人2人は羽田を担当しました。わたくしたちは襲撃のプロではありませんから、身の回りにあるホウキやチリトリ、洗面器など、襲撃に使えそうなものは何でも持っていきました。
 わたくしと友人は15万人を取りまとめ、これから海外へと逃亡しようとしている人間すべてを襲撃しました。あの瞬間ほど美しい光景をわたくしは人生で一度たりとも見たことがありません。日本人みんなが力を合わせて、裏切り者たちを粛清しているのです。わたくしは彼らのことを叩き、引きずり回し、旅行カバンの中身をぶちまけ、正義の行動を心から楽しみました。わたくしのそれまでの人生は塩辛いものではありましたが、あのとき初めて、この瞬間のために生きてきたんだと実感したものであります。
 その日飛行機に乗る予定だった乗客をあらかた襲撃し終わった後、わたくしは襲撃に参加してくださった方々から胴上げをされました。英雄だとか、救世主だとか、そういった今思い出しても照れてしまうような褒め言葉を浴びせられました。わたくしはそれ以来、2ヶ月に渡って成田空港に張り付き、1人たりとも国外逃亡者を出さなかったのです。あ、再びそんな熱い拍手をしていただきありがとうございます。
 2ヶ月って言うと長く聞こえますよね。家には帰らなかったので、その間お風呂とかはどうしたんですか?と聞かれるんですが、実はですね、わたくしたちが空港に張り付いてから3日経った後に、成田空港の職員がわたくしの考えに賛同してくださって、空港内のシャワーやベッドを無料で使わせてくれるようになったのです。彼はこう言っておりました。「僕もこんな大変な時期に国外逃亡する人たちを苦々しく思っていましたよ」と。わたくしは彼を襲撃の仲間に入れ、彼は仕事を放棄して翌日から参加してくれました。日本人は仕事優先で働きすぎと言われますが、こういう正義のためなら仕事すらも投げ出すのです。他の仲間たちも、ほとんど仕事を辞めてきていました。彼らは今何するべきかをわかっていたと思うのです。
 わたくしの場合はと言いますと、職場に何日も行かなかったので、クビになるのは確実かなと思っていましたが、上司に電話して事情を説明したところ、「それは素晴らしい。お国のためにやっていることだから、好きなだけやりなさい。会社のほうはなんとかしておくから」と言ってくださったのです。だからわたくしはこうして活動を続けている今も、会社には籍を置いております。もうそろそろわたくしの運動の成果が出てまいりましたので、そろそろ戻っていいかなと思いますが、こうして全国で講演をしてほしいという申し出が相次いでおりますので、もうしばらく時間はかかりそうですね。
 少し話がそれてしまいました。とにかくわたくしが襲撃を始めて2ヶ月が経ち、飛行機に乗って海外逃亡をしようとする人間は全くいなくなりました。その頃には国外逃亡を自粛せよという機運も高まっていましたので、彼らはそれに屈したのでしょう。きっと今頃はテレビで旅行番組でも見ながら忸怩たる思いで唇を噛んでいると思いますよ。全くそんな無責任な道を選んだ自業自得だと言うのに。もう少し自分たちのしたことの愚かさに早く気づいてほしいものです。
 最後になりましたが、彼らはあなたたちの隣にまだいます。こうしている間にも虎視眈々と国外逃亡を狙い、またいつの日か空港へこっそり足を運んでやると思っているかもしれません。そんなときが来たら、皆さんが立ち上がる番です。わたくしも誰よりも早く空港に駆けつけ、飛行機の前に立ちはだかってでも裏切り者に勝手な行動をさせないつもりでいます。今こそ、日本がひとつになって頑張るときではありませんか。そのためにはまず、裏切り者が出てこないように目を光らせるべきではありませんか。今日はご清聴いただき、本当にありがとうございました。あああ、割れんばかりの拍手、ありがとうございます。感動して涙がこぼれてきました。これからも頑張っていく所存でありますので、どうか変わらないご支援を何卒よろしくお願いいたします。